横浜流星、“盟友”藤井道人監督とだからこそ作り上げられた濃密な撮影空間 映画『正体』現場レポート
◆藤井監督が横浜流星に寄せる信頼感とは?
本作の企画が動き出したのは、4年ほど前のことだという。藤井監督は「今、本作を撮ることができて本当によかったなと思っています。流星とはお互いのことを知り尽くしている関係ですが、今の彼の最終形態に近いぐらいのものが撮れているのではないかと思っています。逃亡した死刑囚である鏑木が、見た目や人格を変えながらいろいろな人に出会っていく話なので、“横浜流星七変化”と言いますか、横浜流星のすべてを見られるような映画」と本作を分析しながら、「僕から見ても流星は、劇中の人間になりきる力や、その精度が圧倒的にすさまじいものになっている。本当に楽しく撮らせてもらっています。スタッフのみんながモニターを見ながら『横浜流星、すごい!』と言っているのを、僕は『知ってる、知ってる。でしょう?』と思っています」と横浜の成長と彼への賛辞がうれしくて仕方ないといった様子。 さらに藤井監督は「流星とは、脚本作りの段階から一緒にやっていける」と特別な存在だと明かしながら、「彼がどれだけ素晴らしいパフォーマンスをしてくれるかということも分かっています。お互いに妥協をしないタイプ」とにっこり。横浜と他の俳優では「演出方法が違う」と明かす。 「他の俳優さんの場合は、キャラクターの感情について話しながら演出をつけていきますが、流星とはもうその段階は終わっていて。今そちら側のショットは使わないから、間をこれだけずらしてほしいとか、画角や表現領域などテクニカルなことまで共有できる。そうやって進めていけるのは、僕にとって流星だけです」と言葉にせずとも共有できることがたくさんあるという。お昼休憩の合間に行われた藤井監督のインタビュー部屋にも、横浜が「よろしくお願いします!」と取材陣に挨拶に訪れて2人で笑顔を弾けさせるなど、そんな瞬間からも彼らが気の置けない間柄にあることがよく分かる。
◆藤井監督、横浜流星も尊敬してやまない山田孝之の唯一無二の俳優力
逃避行の道のりで出会う人々の視点から、鏑木の“正体”が浮かび上がる。そういった群像劇としての面白さが、本作の鍵となっている。横浜以外のキャストが藤井組に俳優として出演するのは、今回が初めてのこと。「新しい俳優と出会いたいという欲望がある」という藤井監督だが、「映画人のなかでも緊張するのが、山田孝之さん」と苦笑いを浮かべる。 「僕がインディーズ時代に撮った『デイアンドナイト』で、プロデューサーを務めてくれていたのが山田さんです。僕はそこから公私共に、山田さんの背中を見させてもらってきて。ずっと彼の生き方、映画界の未来についての考え方などを吸収したいと思ってきました。そんな彼に初めて、役者としてオファーをしたのが本作です」と告白。「観客の方々は、又貫の目線になって鏑木の正体を追いかけていく。又貫役を誰にお願いしたいかと考えた時に、ダメ元で山田さんにオファーをしてみようと思いました。山田さんに又貫を演じてもらえて、僕としても一つ夢が叶ったよう」と感激しきりだ。 現場で山田を撮っていても「唯一無二で、圧倒的。みんなが山田さんを目標にする理由が分かる。それを目の前でまざまざと見せられたような気がしています」と彼のすごみを実感しているといい、「流星にとっても一番尊敬していて、いつかご一緒したいと話していたのが、山田さんなんです」と山田とのタッグは、藤井監督、そして横浜にとっても念願だったと話す。