韓国国会前で15万人弾劾コール 不成立に「廃案許さない」「民主主義終わった」
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案は7日、与党「国民の力」の国会議員が投票を棄権したため、廃案に追い込まれた。韓国史に残る戒厳令で国民を混乱させた責任すら明確にできない国会に、市民たちは怒りの声を上げた。 【写真】国会前を埋め尽くした韓国の尹錫悦大統領の退陣を訴える市民ら 聯合ニュースによると、国会前で開かれた弾劾を求める集会には、警察の推算で約15万人もの市民が集結。日が沈み、気温が氷点下に冷え込む中、大型スクリーンやスマートフォンなどで国会中継を見ながら、弾劾コールを繰り返した。 「尹錫悦は韓国の大統領ではない」「与党は国民のために投票すべきだった」。午後9時半ごろ、投票不成立の一報が流れると、国会前に怒号が響いた。ソウル市の金光東(キムグァンドン)さん(67)は「民主主義が終わった。歴史的にも常識的にもあり得ないことだ」と投票を棄権した与党議員を批判。40代女性は「国会議員たちは弾劾案の投票すらできないのか。これだけ国民を振り回した挙げ句、廃案なんて許されない」と憤った。弾劾訴追案の再提出を望むソウル市の女性会社員(29)は「次回は与党議員も必ず議席に座らなければならない」と語気を強めた。 審議途中で与党議員の一部が議場に戻ったという情報が流れた際は大きな歓声が上がり、大型スクリーンに与党議員の連絡先が映し出されると、参加者たちは議場に戻って投票するよう一斉にメッセージを送った。 「大統領は民主主義を壊す戒厳令を出した。当然ながら弾劾されなければならない」。京畿道の女性作家(30)はこの数日、国会前デモに参加しながら、スマホで与党議員数十人にメッセージを送り、弾劾訴追案への賛成を求めてきた。「民主主義が壊れ、私たちが声を上げられなくなることを恐れている」 ただ、尹氏の戒厳令を批判しつつ、弾劾には賛同しない市民も少なくない。 江原道で兵役に就く20代男性は、戒厳令で混乱した軍隊の内側を告白。下級幹部は「国が滅亡する兆しだ」と声を高め、隊員は口々に不満を訴えていたという。戒厳令は約6時間で解除されたが「最初から最後まで理解ができなかった」と話す。それでも男性は「弾劾で与党が壊滅し、野党を阻止する勢力がなくなることが最も心配だ」と複雑な心境を吐露した。 保守層を中心に弾劾に否定的な声は根強く、「違憲的弾劾反対」のプラカードを手にしたソウル市の70代女性は「弾劾案は左派が政権を取るために無理やり作り上げた」と主張。最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表が複数の事件で起訴されていることを念頭に「疑惑だらけの人が国のトップになることは最も避けなければならない」と話した。 光化門広場では、尹氏に退陣を求めるデモにぶつけるように「李在明を逮捕せよ」と声を上げる人々も集まり、警察が衝突しないよう制御していた。 突然の戒厳令を発端に、混迷を極める韓国社会。仁川市の女性(39)は「国民から直接選ばれた大統領だが、何をやってもいいわけではない。独善的で愚かな判断の責任も取れない。韓国が発展途上国になったようだ」とつぶやいた。 (ソウル平山成美)