【中国にとっての宿願】習近平主席は「台湾統一」に向けた工作のプロだった 毛沢東時代から続く中国共産党「統一戦線工作」の手法
習近平・中国国家主席にとって宿願とも言える「台湾統一」。実現に向けた重要任務を負うのは「中国共産党中央統一戦線工作部」だ。中国の歴史や文化、社会に精通する社会学者の橋爪大三郎氏と、元朝日新聞北京特派員のジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏は、「中国共産党の“統一戦線工作”は毛沢東による建国当時から続いている」と指摘する。その手法とはどんなものか。(両氏共著『あぶない中国共産党』より一部抜粋、再構成)【シリーズ第9回。文中一部敬称略】
* * * 橋爪:毛沢東による中国共産党の国づくりはどう進んだのか。1927~1937年の中国国民党と中国共産党の間での第一次国共内戦を経て、毛沢東の中国共産党は、中国本土の支配権を確立した。しかし、人材も資源も不足していました。人口は多いけれど、知識人が足りなかった。 峯村:1949年に中華人民共和国が建国された時は、中国共産党に敗れた蔣介石の国民党政府が台湾に逃れたことで、国民党系の知識人も中国大陸からいなくなり、人材はより不足していたはずです。 橋爪:そこで、数少ない知識人をどしどし入党させる必要があった。結果として、これから国づくりに関わろうとする意欲のある人びとが大勢、党員となりました。国内外の学歴のある人や、科学者・技術者みたいな立場の人が、さまざまなポストに就きました。 当時の中国は、農村と都市の二本立てになっていました。中国共産党は、農村の「解放区」を基盤にしていた。「解放区」では、地主の土地を取り上げて、農民に分配します。権利書も作成して、農民に配る。農民は喜んで生産性も上がる。こうして新中国はスタートしました。
資本家を騙して社会主義を建設
峯村:中国共産党が国民党に反抗し、じわじわと勢力を拡大していく際に採ったアプローチが、「統一戦線工作」というやり方です。国民党の内部を分裂させたり、友好勢力を増やしたりする伝統的な手法です。共産党が「法宝」(魔法の武器の意)と呼んで最も重視する工作のひとつと言っていいでしょう。 橋爪:はい。共産党が政権をとると、それまで活動していた外国企業や国民党系の人びとはいなくなりました。そこで統一戦線工作部は、残っていた中国人の資本家に、「共産党に協力しませんか」とはたらきかけた。ダンスパーティーなどを開いて手なずける。都市部に工場設備をもっていた資本家は、それならと「民族資本家」になります。その後も、「工場を国に寄付しませんか」「寄付しても社長を続けられます」「現在の邸宅に住んだままでいいですよ」などと秋波を送る。そこで工場を寄付すると、私有財産がなくなります。高級時計や金目の家具なんかも供出させられた。 そのあとも、「元資本家なのか」「いつまで大きな邸宅に住んでいるつもりだ」という話になって、気がつけば“ただの人”になっている。都市部はそんなふうに社会主義になった。つまり統一戦線工作部は、資本家を騙して財産を没収する係だった。中国共産党はこうやって、ありったけの資源をかき集めながら、社会主義建設を進めたんです。