“話す”死体が殺人事件を解決していた、200年前まで続いた「棺台の神判」とは
シェイクスピアの戯曲にも登場、死後も男性より信用されなかった女性たち
信頼性に欠ける毛髪分析からDNAサンプルの取り扱いミスまで、現代の法医学にはさまざまなトラブルがつきものだ。しかし、現代の法廷による犯罪の証拠の集め方には感謝すべき点も多くある。なにしろ、ほんの数世紀前までは、殺人犯がその場にいると死体は自然に出血するという考えに基づいて殺人の有罪判決が下されていたのだ。 ギャラリー:700年前の殺人被害者の顔を復元、リアルな生前の姿を蘇らせるまで 写真11点 少なくとも1100年代から1800年代初頭まで、ヨーロッパ各地や植民地時代の米国の法廷では、「クルエンテーション」(由来はラテン語の「血で染まる」)あるいは「棺台(かんだい)の神判」と呼ばれる試練に基づいて人々が裁かれていた。 このような試練では、死体の刺し傷から流れ出る血や、鼻や目から噴き出す血が有罪の証拠とされた。
死体からの出血はありうる?
クルエンテーションがどのようにして信じられるようになったかは、正確には分かっていない。だが、6世紀頃の出来事について書かれたゲルマン民族の叙事詩『ニーベルンゲンの歌』は、この現象について言及している最古の記録の一つだ。この詩では、竜殺しのジークフリートが殺され、その死体が棺に安置される。彼を殺したハーゲン(ハゲネ)が棺に近づくと、ジークフリートの死体の傷口から血が流れ始めるのだ。 この詩が書かれた時点で、その考えはすでに浸透しており、「血に染まった殺人者が死体のそばに行くたびに、傷口から血が流れ始めるのは、非常に驚くべきことであり、今日でも頻繁に起こっている」と書かれている。 現代では、死体が何らかのきっかけで出血するなどと信じるのは難しいだろう。死体は通常、あまり長い間血を流すことができない。死後すぐに血液が体の最も低い部分に沈んで「死斑」ができ始め、約6時間以内に血液は固まると、法医学者で小説家のA.J.スクディアー氏は説明する。 「この間、死体から実際に出血することはないでしょう。血がにじむことはあるかもしれませんが」と氏は述べる。 では、人々は何を見て有罪を確信したのだろうか? もし、死後十分な時間がたっていれば、腐敗の初期段階でできる漏液と呼ばれる液体が、肺にたまっていた可能性がある。その後、裁判のために持ち込まれた死体を突いたり押したりすると、この液体の一部が鼻などの開口部から漏れたかもしれない。 しかし、人々は科学を信じてクルエンテーションを実践したわけではない。彼らは文字通り、法廷での「奇跡」を信じていたのだ。当時の裁判では、神による介入の結果が、目に見えて明らかな証拠として用いられた。棺台の神判は、その一つにすぎなかった。 例えば水審(水の試練)では、魔女は浮き、無実の者は沈むとされたことが有名だ。火審では、容疑者は熱い鉄を握らされたり、熱い鉄の上を歩かされたりした。3日以内に傷が癒えなければ、有罪とされた。