料理家・有元葉子が「14万円のオイルディスペンサー」を作った「切実な理由」
銅製のディスペンサーの利点
私はオリーブオイルをたくさん使うので、缶入りを使用しています。オイルはもうかれこれ30年以上のお付き合いになる、イタリアはウンブリア州のマルフーガ社のもの。野草の香りに加えてアーモンドのような香りとうまみがあり、イタリアでも最高のオリーブオイルだと思います。 中身は同じですから、大容量の缶入りがよいのですが、これにはオイルディスペンサーが必要です。イタリアの家庭も、たいていの家は缶入りを買い、オイルディスペンサーを使っています。 家庭や調理場で使うオイルディスペンサーは銅製が多いですね。なぜ銅製かと言えば、銅は柔らかくて、細工しやすいからでしょう。そして見た目もきれい。 たいていが銅と錫を貼り合わせた「錫引き」になっています。銅は熱伝導率がよく、お菓子の型など使われますが、酢や塩分で変色したり、素材に色移りするなど、酸化しやすいので、錫でコーティングするのでしょう。 また、オリーブオイルは油ですから、遮光できる容器で冷暗所に保存します。 銅には、殺菌効果や抗菌効果もあると言われています。清潔に保てるところ、鉄などに比べて錆びにくかったり、耐食性にも優れているところが利点ですから、オリーブオイルの容れ物にぴったりです。
「できるだけ利益を得たい」を優先すれば…
私が以前使っていたオイルディスペンサーは、ステンレス製でしたが、ドイツの道具の見本市で見つけて、スタイリッシュですごく素敵と、ひとめぼれして使い始めました。 ところが使っているうちに、ふたの頭が取れてしまったり、洩れることがあったり、いろいろ変だなあと思うことが、たびたび起こるようになりました。 ドイツのフランクフルトでの展示会に、その会社が出展していたので、展示ブースに寄ってみました。するとそこにちょうど、その会社の社長さんがいました。 「オイルディスペンサー、なにか変わりました?」 単刀直入にうかがうと、「イタリアでは作らなくなった。安価な海外に発注するようにしました」とおっしゃいます。 できるだけ利益を得たい、そっちを優先すれば、安くできる国に生産拠点を移す、まさにそんな時代でした。翌年の展示会では商品自体がなくなっていました。 オイルディスペンサーだけでなく、以前並んでいた素敵なサーバーなんかも、全部やめてしまったのだそうです。新しく並んだ商品は、どれも首をかしげるようなものばかり。出会った頃は、あんなに素敵だったのに。 その後も海外にいる時は、食器屋さんとか道具屋さんとか、そういう素敵な店を巡っては、代わりのオイルディスペンサーを探して歩いていました。 けれども使いにくそうなものばかり。仕方がない、これは作るっきゃない、と腹をくくりました。