現代ものの朝ドラヒロインの特徴は自信のなさ? 橋本環奈に託された『おむすび』の“未来”
朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』を第3週まで観て思ったのは、朝ドラは現代ものになると主人公が最初はモヤモヤしているなあということである。 【写真】ギャルじゃない姿でついに本格登場の仲里依紗 例えば『まれ』(2015年度前期)の主人公・まれ(土屋太鳳)は小学生のとき「私は夢が嫌いです」と言っていた。夢だらけで失敗してきた父の姿を見ていたからだ。『おかえりモネ』(2021年度前期)の百音(清原果耶)は中学生までは夢いっぱいでキラキラしていたが、震災をきっかけに夢や希望が持てなくなり、鬱々とした日々を過ごしている。物語はそこからはじまった。『舞いあがれ!』(2022年度後期)の舞(福原遥)は幼い頃、病弱で消極的だった。ただし、『舞いあがれ!』では最初に主人公の未来形が登場し、どうやら颯爽とパイロットになるらしいと期待を持たせている。近年の現代もので、元気いっぱいがむしゃらだったのは、『半分、青い。』(2018年度前期)の鈴愛(永野芽郁)くらいであろうか。彼女はハンディキャップをもちながらバイタリティーにあふれていた。 現代ものの主人公が悩み多く立ち止まりがちなのは、国力が低下して夢や希望が持ちにくい表れなのかなと思う。そんな主人公が停滞した状況をどう突破するか、それを描くのが現代ものの朝ドラの使命であろう。ただ、『まれ』『モネ』などを見るに、朝ドラは長丁場ではあるものの、スタートダッシュが大事。つかみの部分でモヤモヤすることなく、テーマをずばり、ぶちあげないと視聴者がモヤモヤ迷ってしまうようなのだ。そうはいっても、毎回、毎回、初回の冒頭で、主人公がキラキラ活躍している未来形を描くパターンも、作る側としては工場の一工程をなぞっているみたいでこれでいいのかとモヤモヤしてしまうのではないだろうか。 『おむすび』は第3週のサブタイトルが「夢って何なん?」(演出:野田雄介)で3週目に入っても主人公の結(橋本環奈)は夢を持てないでいる。彼女は代々、糸島で営んでいる農家を継ぐことと、平穏無事に暮らすという堅実な目標を持っているのだが……。第15話で、プロ野球選手になるのを夢にせっせと努力を積み重ねている四ツ木(佐野勇斗)には、平穏無事を夢にするのはさみしくないかとツッコまれるほどで、結はまだ高校生にもかかわらず足るを知り過ぎている。なぜ、そうなってしまったのか、そこが目下、物語の根幹になっている。 高校生になった結は、書道部に入り、風見先輩(松本玲夫)にほのかな恋心を覚えたり、ハギャレンたちと一緒に過ごすようになったりして、彼や彼女たちがそれぞれ持つ夢に触れて感化されてきた。いい傾向である。 結は当初、ギャルといえばちゃらちゃらしていてしょうもないものと思って嫌悪していた。それは父・聖人(北村有起哉)も同じ。姉の歩(仲里依紗)がギャルになって不良化したと聖人と結はネガティブに捉えていた。でも、外見で偏見を抱くことが間違っていたことを結は知る。第15話で、街で恐喝しているふだつきのギャルたちに、ハギャレンたちはあなたたちとは違うと結はきっぱり断じた。彼女たちは夢があり、礼儀正しくごはんの食べ方もきれいだと。 ハギャレンたちが喜ぶのは、メイクもファッションも「かわいい」と言われたことで、「かわいい」は正義であることを根本ノンジは書いている。「かわいい」を追及していくと自ずと、心がかわいく美しく、礼儀正しくなるに違いない。 ちょうど、第15話が放送された日、『カーネーション』の再放送の第23話で、和服から洋服に切り替えられていく時代、洋服を堂々と着ることの重要性が語られていた。主人公・糸子(尾野真千子)に洋裁を教える根岸先生(財前直見)は「人は品格と誇りを持ててはじめて夢や希望も持てるようになる」と語る。これを結に聞かせてあげたい。つまり自分に自信を持つことで、前向きになれるということであろう。結はまだ自分に自信がないのである。 朝ドラの主人公(主に戦前戦中戦後を舞台にした作品の)は根拠なき自信にあふれている。糸子はまさにその典型である。それが「ウザい」と感じることもときにはあるが、やっぱり自信を持っている登場人物に多くの視聴者は惹かれるのではないだろうか。 ただ、自信がない登場人物が自信を持つまで見守る寛容さもときには必要だろうし、自信がない主人公に心を寄せる人だっているはずなのだ。 結は、ハギャレンのメンバーたちと並ぶととても小柄で、年下のようにも見える。姿形から見たら妹キャラみたいなのだ。おもしろいのは、小さくて自分がまだ持てなくてふわふわしている結を演じる橋本環奈自体はひじょうに堂々としていて、身長差を感じさせないところが魅力になっている。主役を張るだけのオーラがある。物理的に小柄なうえ、服装も、ハギャレンたちの派手なファッションとメイクと比べたら地味。にもかかわらず橋本環奈は決して埋没していない。演技ではおどおどしながら、内側からは強烈なエネルギーを発している。橋本環奈の存在そのものが、『おむすび』の未来形を示しているように見える。たぶん、将来的に結は自信と夢を持って前向きに生きていくのだと想像している。それがきっと、元気のない現代を生きるヒントになるだろう。 余談だが、第15話で、不良系ギャルたちが、気弱そうな男性を路地に連れ込んで恐喝しているところを、ハギャレンが止めに入るエピソード。通常であれば、男性が女性に対して力を使って優位に振る舞うことが多いが、ここでは女性たちが男性に強気に出ていることに注目したい。朝ドラではたいてい、男性優位の社会に女性が必死で抗っているのだが(先述の『カーネーション』もそうだし、前作の『虎に翼』もそうだった)、2004年、女性の力は強くなっているようである。
木俣冬