日本全体が「貧困化」しているのか?「低・中所得者」が大幅に増加している現実を読み解く
この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか? 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
労働参加の急拡大と低所得者の急増
日本ではこれまで周縁労働者と考えられてきた女性や高齢者の労働参加が急速に進んでいる。このような急速な労働参加の拡大は、日本人の賃金の動向にも大きな影響を及ぼしてきたと考えられる。 続いて、国税庁「民間給与実態統計調査」から、1年以上継続勤務者の賃金分布の変化を確認する(図表1-29)。 すると、この四半世紀ほどで日本人の賃金構造はかなり変化していることがわかる。まず、低・中所得者が大幅に増加している。年間200万円以下の給与を得ている人は2000年の825万人から2021年には1126万人に、200万円から400万円の層も1464万人から1696万人に増えた。 年収水準が低い労働者の増加はどのように解釈できるだろうか。低所得者が増えているのだから日本全体が貧困化しているのだと主張する人もいるかもしれない。 しかし、さまざまなデータを分析していくと、日本において貧困問題が深刻化している様子や格差が急拡大している姿は見えてこない。マクロの平均時給は足元では伸びてきており、むしろ非正規雇用者をはじめとする低所得者の待遇改善の方が先行して進んでいるのである。 さまざまなデータを組み合わせて考えてみると、年収水準が低い労働者が増えている理由の多くは、女性や高齢者が労働市場に急速に参入してきたことや、労働時間が短くなっていること、あるいはこれまでであれば自営業者として働いていたような人が雇用されて働くように変わってきていることなどによってかなりの部分が説明できると考えられる。 実際に同図表をみると、年収400万~600万円の人数は1143万人から1341万人へと中間所得者層のボリュームも大幅に増えている。 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から性・年齢別の年収水準を取ると、女性や高齢者の賃金は全体平均よりかなり低くなっている。こうした人たちが急速に増えることが労働市場全体における賃金の上昇圧力を抑制し、統計上の平均賃金をも押し下げきた側面があると考えられる。