再びベッドに入ると

初日の出まで3ヵ月…ハハンハン　Photo by FRaU

私は自室の電気を消し、再びベッドで横になった。1階で酔い潰れている父の騒音も、もうしない。全てが静かになると、リーンリンと天然のBGMが淀んだ空気を一掃し始める。心地よい。薄い壁越しに咳払いが聞こえた。秋の虫たちの音に波長を合わせるように、優しく心を込めた子守唄が漂い始める。私は静かに目を閉じた。 「もぉ~いくつねると~おしょうがつ~。おしょうがつにはハフフフン、ハフハウハハハ~ハハンハハン」 選曲が斬新だ。あと約3カ月寝るとお正月だ。肝心なところは全てハハンハン。いろいろ思って眠れない。 すると母の声がした。「お姉ちゃん、もうわかったから寝てくれない？ はい、ありがとさん」と、やや笑っている。私もにやけた。流石、我が姉だ。 ◇過去よりもいろんなことができなくなっていくのが「大人になってから年を重ねる」ということでもある。40代、50代と年を重ねていくごとに多くの人が「ああ、これができなくなったなあ」と思うように、認知症になった方も、本人だって「感じる」のだ。 そして、多くの方が「これができなくなったなあ」と思うことの一つが「走れなくなる」ことではないだろうか。先月も踏切での事故のニュースがあった。元気な人間でも踏切の「カンカンカン」という音はちょっとドキッとする。では、にしおかさんが認知症の母、ダウン症の姉と踏切を渡るときは……。 後編「にしおかすみこ、認知症の母とダウン症の姉と共に踏切を渡ったときの「危機」」ではそんなエピソードをお伝えする。