トランプ氏は受諾演説で国民に結束と融和を呼びかけた:バイデン大統領の選挙戦離脱観測が強まる
トランプ前大統領は、共和党大会の最終日となる米国時間18日に、共和党大統領候補者指名の受諾演説を行った。トランプ氏は、13日の襲撃事件を受けて演説のテキストを大幅に書き直したとされる。バイデン政権への批判を抑え、共和党員のみならず米国民全体に融和と結束を呼びかけるメッセージを強めた。 実際、トランプ氏は演説の冒頭で、「われわれは社会における不和と分裂を癒やされなければならない。米国民として、われわれは一つの運命と共通の宿命によって結ばれている」と述べた。 さらに「私は米国全体のための大統領に立候補している。米国の半分のための大統領ではない」とした。「米国全体のための大統領」というフレーズには聞き覚えがあったが、これは8年前の2016年にトランプ氏が大統領選挙の勝利宣言で用いた「私はすべての国民の大統領になる」というフレーズと重なる。あたかも、大統領選挙に勝利した後の発言であるかのようだが、その狙いは、無党派層の取り込みにあるだろう。2016年にトランプ氏は「私はすべての国民の大統領になる」と涙ながらに強く約束したが、実際には米国の分断を一段と強める4年間となった。 トランプ氏は演説の中で初めて、13日に起きた襲撃事件について語った。「血があらゆるところに飛び散っていたが、神は私のそばにいたので、ある意味とても安心していた」、「驚くべきことは、あの銃撃の前、もし私が最後の瞬間に頭を動かさなかったら、暗殺者は完璧に命中させていただろう」など、神懸かり的な奇蹟が起こったことを強調した。 トランプ氏は演説の中でバイデン大統領の名前を一度だけ口にすると述べ、批判を展開した。「米国史上最悪の大統領」、「彼がこの国にもたらした被害は、想像を絶する」と述べ、ここでいつものトランプ節が戻った感がある。 トランプ氏は、政策については多くは語らなかったが、経済に関しては、破壊的なインフレ危機を直ちに終わらせ、金利を引き下げ、エネルギーコストを下げると述べた。しかし、彼が掲げる追加関税の導入や移民規制の強化などはインフレ圧力の上昇と金利上昇を招く可能性があり、金融市場がトランプ氏の主張をそのまま受け入れる様子はない。 米CBSなどが16日から18日まで実施した世論調査によると、トランプ支持率は52%、バイデン支持率は47%となった。13日の襲撃事件を受けて、トランプ氏の優位は一段と強まった。 米国大統領選挙巡る当面の焦点は、バイデン大統領の選挙戦離脱の有無となってきた。民主党内では同氏の離脱を求める声が日に日に強まっており、近いうちにもバイデン大統領が離脱を決意する可能性は高まっているのではないか。その場合、民主党陣営が、新たな大統領候補を迅速に決定し、8月の民主党大会までに態勢を整えることができるかが注目される。 しかし、バイデン大統領に代わる最有力候補であるハリス副大統領がトランプ氏と勝負をする場合の調査では、ハリス副大統領の支持率は48%(米CBSなど)とトランプ氏の51%に後れをとっている。 バイデン大統領が離脱しても、民主党が大統領選挙で勝利できる可能性は低下してきており、金融市場はトランプ氏の勝利を前提とする「トランプトレードに着実に傾いている(コラム「トランプ再選は米国経済・金融市場が抱える問題を増幅:ドル高・円安が緩やかに修正されるのであれば日本経済にプラスだが。。。」、2024年7月18日)。 (参考資料) "Donald Trump Accepts Nomination, Pledges to Serve All Americans(トランプ氏が指名受諾演説「全ての国民に仕える」)", Wall Street Journal, July 19, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英