大統領選までいよいよ半年弱、バイデン政権を悩ます「悪夢の1968年シナリオ」とは何か
■今の状況は1968年に似ている? しかるにバイデン氏にとって、若者の支持を失うのは致命的なことである。そうでなくても11月には82歳になる高齢のバイデン氏は、彼らから見て理想の大統領候補者とは程遠い。若者たちが11月の投票日に家で寝てしまうと、それこそ「ほぼトラ」確定ということになりかねない。 最近では、この状況が「1968年に似てきた」とも言われている。プラハの春、パリ五月革命、キング牧師暗殺の年である。アメリカではベトナム反戦デモが猖獗(しょうけつ)を極めた。日本では川端康成がノーベル文学賞を受賞し、東京・府中市で「三億円事件」が発生し、メキシコ五輪ではストライカー釜本邦茂を擁する日本サッカーが銅メダルを獲得した年である。
この年のアメリカ大統領選挙では、民主党のリンドン・ジョンソン大統領が再選出馬するものと目されていた。ところが、ベトナム戦争の泥沼化によって、予備選挙では反戦候補のユージーン・マッカーシー上院議員が大旋風を巻き起こす。するとジョンソン氏は、3月になって出馬辞退を宣言してしまう。 民主党主流派は大慌てとなった。そこへジョン・F・ケネディ大統領の弟、ロバート・ケネディ元司法長官が急遽、名乗りを上げてくれた。6月のカリフォルニア州予備選挙で勝利し、これでひと安心と思ったところ、その直後に暗殺されてしまう。今年はその長男、ロバート・ケネディ・ジュニア氏が、第3政党の候補者として大統領選挙に出馬していることも含めて、不思議と因縁めいている。
結局、8月にシカゴで行われた民主党大会では、反戦運動家たちが暴徒化し、警官隊との間で流血の惨事となった。大混乱の中で、民主党はヒューバート・ハンフリー副大統領を正式な党の候補者に指名する。しかるに妥協の産物であったハンフリー氏は、共和党のリチャード・ニクソン候補に僅差で敗れてしまう。 反戦運動の暴走に対し、ニクソン氏は「法と秩序」の回復を訴え、ベトナムからの「名誉ある撤退」を主張する。そのうえで、「私にはベトナム戦争を終わらせる秘密のプランがある」と語った。この辺りも、「私が大統領になれば、すぐにウクライナ戦争を終わらせてみせる」と豪語するトランプ氏と妙に重なって見える。