ひたすらネガティブな独り言をつぶやく「ハムレット」 主人公がほぼ“ツイ廃”なのに名作になった理由
■主人公がキャラ強めな『ハムレット』 シェイクスピアが原作をアレンジするときによくやる、もう1つのパターンが、キャラ設定をめちゃめちゃ強くする、というものです。代表的な作品が『ハムレット』です。 シェイクスピアの代表作ですが、これにも原作があると言われています。『スペインの悲劇』という戯曲が影響を与えたとされていますが、原作の主人公は、そんなにキャラは濃くなく、名前もハムレットではなく、ヒエロニモでした。
『スペインの悲劇』の主人公ヒエロニモは、息子の死に対する復讐に燃える、単純明快なキャラクターです。彼の行動は直線的です。 一方、ハムレットは哲学的かつ内省的なキャラクターで、父の死後、母が叔父と再婚したことを嫌悪し、叔父へ復讐しようかどうかと絶えず悩み続けます。彼の行動は一貫性に欠け、優柔不断で、いつもうじうじしています。 もともとは単純だったキャラクターに、シェイクスピアはハムレットという名前を与え、ひたすら独り言を言いまくる人物として造形しました。
でも、独り言をつぶやき続ける主人公なんて、全然主人公らしくないですよね。ふつうに考えてエンタメにならないような気がします。一日中SNSでつぶやいてるようなもんです。実際上演するときも、5分から10分ぐらいの長い独り言が、計8回入ります。ずーっとぐちぐち、なよなよしてるんです。 そんな作品が、なぜ名作になったのでしょうか。 実は、そんなうじうじ悩みまくるハムレットに、お客さんが感情移入しちゃうんです。ああでもない、こうでもない、「生きるべきか、死ぬべきか」、やろうか、やるまいか……そんなお悩み相談を聞いているようなものです。
聞いているうちに、ハムレットが悩みを抱える友だちのように見えてきます。もしかしたら、当時の劇場では「ハムレット、悩んでないで行っちゃえよ!」。そんな言葉が飛んでいたかもしれません。 ■シェイクスピアならではの「劇中劇」の使い方 『スペインの悲劇』と『ハムレット』のもう1つの大きな違いは、劇中劇の使い方です。劇中劇とは、文字通り、物語の中で、登場人物たちによって演劇が行われること。観客が観ている劇の中で、劇が上演されます。これもシェイクスピアが好んで使った手法です。