112年の歴史を塗り替えた近代五種・佐藤大宗。競技人口50人の逆境から挑んだ初五輪「どの種目より達成感ある」
高難関の馬術で満点の舞台裏。20分で初対面の馬と…
――5種目の中でも、佐藤選手は最初の馬術で300点満点と勢いに乗りました。馬は直前に抽選で決められ、わずか20分間のウォーミングアップで本番に臨まなければならないルールですが、短時間で、初対面の馬とどのように呼吸を合わせたのですか? 佐藤:抽選で決まるので、騎乗馬は毎回、別の馬になるんです。準決勝で乗った馬は、車でいうとオートマのような感じで、アクセルとブレーキしかない、誰が乗っても乗りやすい馬でした。「前に行って」って伝えたら行ってくれるし、「障害を飛んでほしい」と伝えると飛んでくれる。決勝の馬もいい馬なんですけど、準決勝の馬と比べると、右に行きたくても反抗するところがあって、ちょっと難しい部分がありました。それに、男子決勝の前に行われた午前中の女子準決勝で使われた馬だったので、体力も削られていたんですよ。 その分、決勝前は体力を温存しなきゃいけないので、20分間のウォーミングアップをひたすら動かすのではなく、1分間動いたら1分間休む、というサイクルを繰り返して、トータル10分間ぐらいしか動きませんでした。その中で仕上げていくのに、すごく頭を使いましたね。 ――結果的に、その戦略が実ったのですね。 佐藤:そうです。馬術は、北海道のノーザンホースパークでの事前合宿で騎乗指導をしていただいた楠木貴成先生が、大会中もサポートしてくださいました。日本とパリで7時間の時差がある中、電話をつないでその都度アドバイスをもらいながら、準決勝、決勝ともに戦ったんです。そのアドバイスをすべて冷静に聞いて、馬たちも頑張ってくれたので、文字通り人馬一体になって、ノーミスでベストパフォーマンスを出せたと思います。本当に楠木先生はじめ、馬たちには心から感謝しかないです。 ――馬術競技は2028年大会から廃止されて、障害走の「オブスタクル」に変更になるそうですが、これについてはどのような思いがありますか? 佐藤:個人的には馬術競技が大好きなので結構悲しいんですが、近代五種は馬術競技があることによって、競技人口が増えにくかった側面もあるんです。お金がかかる上に練習場所も限られるので、一般的には始めにくい種目という見方もあったんです。それがオブスタクルという種目に変わることによって、いろいろな方が興味を持ってくれるようになると思いますし、合同練習もできると思います。「時代が変わるんだな」とプラスの側面を見て、競技人口が増えることに期待しています。 ――種目が変わると、そこに一から合わせていくためのトレーニングも大変ですよね。 佐藤:それはかなり大変だと思います。でも、自分がどこまで順応できるのか、世界で戦えるのか、という楽しみがあります。新しく競技を始める方々や見ている方々も、オブスタクルのルールや魅力を知ってほしいですし、それをきっかけに近代五種の面白さを知ってもらえたらと思います。オブスタクルは他のいろいろな競技にもつながる要素を秘めた競技だと思うので、楽しみにしていてほしいですね。