伝統軽視の風潮にイギリス政府も介入 膨れあがるマネーゲーム、正解なき道【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑫完】
▽英政府も介入し、持続可能な道探る 「プロリーグ」と位置付けられるプレミアから4部までの92クラブの格差は、かつてないほどいびつに広がっている。3年前にサウジアラビアの政府系ファンドを中心とした共同事業体が推定3億ポンド(当時のレートで約450億円)でニューカッスルを買収したように、ピラミッドの頂点に巨額の資金が流れ込む一方で、下部リーグでは破産に追い込まれるクラブもある。 こうした背景から英政府はサッカー界のガバナンスを強化する法案を公表。可決されれば導入される「レギュレーター(規制者)」の主目的には各クラブの財政面を取り締まることに加え、「ファンや地域社会にとって最も重要なイングランド・サッカーの伝統を保護する」という、外国人オーナーをけん制するような文言を明記している。 この動きをサポーターやイングランド協会、フットボール・リーグが歓迎するのに対し、長年にわたり業界の主導権を握ってきたプレミアリーグは「この法案がイングランド・サッカーの競争力と魅力を弱める可能性があることを懸念している」との声明を出して立場の違いを鮮明に表した。
新型コロナウイルス禍で一時はサッカー界のビジネスモデルも変わるかと思われたが、クラブが高騰する選手の年俸や移籍金を捻出するため、ファンの払うチケット代や視聴料などあらゆる価格が引き上げられている。監査法人デロイトによると全クラブの年俸総額はプレミア創設前の1991~92年シーズンと比べ、50倍以上に膨れ上がって40億ポンドを超えた。 歯止めのきかないマネーゲームと化したプレミアリーグは、果たして持続可能なモデルと言えるだろうか。かつてFAのコンサルタントとしてリーグ誕生の礎を築いたアレックス・フィン氏は「需要がある限りは可能だろう。クラブ側が真のサポーターと同じ価値観を持っていないのは残念だが、今のイングランドではお金こそがものを言う」。 8月16日にプレミアリーグの新シーズンが開幕した。創始者たちの想像を遥かに超える規模の巨大産業に成長したリーグは、今後も正解なき道を歩み続ける。(完)