伝統軽視の風潮にイギリス政府も介入 膨れあがるマネーゲーム、正解なき道【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑫完】
かつてフーリガン問題がピークだった1985年、高級紙サンデータイムズは「英国サッカー界は危機にひんしている。スラムの人々が、スラムのスタジアムで見る、スラムの競技になった」と痛烈に切り捨てた。それから約40年。イングランドには各国からスター選手が集まり、世界中のファンを魅了する最高峰のリーグに生まれ変わったが、ピッチ外には問題も山積している。(共同通信=田丸英生) 【写真】痛ましい死傷事故が相次ぐ苦難の時代も…世界最高峰のサッカーリーグは、どん底の状況からどうやって成功への道を駆け上ったのか。【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生①】
▽放映権分配による均衡化に揺らぎ プレミアリーグは放映権収入の半分を全20クラブに均等分配し、なるべくクラブ間の収入格差をなくして戦力の均衡化を図る。このため下位クラブが上位の強豪を倒す波乱も珍しくない。その競争力の高さを維持するためにリーグは収支均衡などさまざまな財務規則を設けるが、不確定要素の多いリスキーなビジネスにおいて多くのクラブはあらゆる手段で強化を図る。 2008年にアラブ首長国連邦(UAE)アブダビの投資グループが買収して急成長したマンチェスター・シティーは、2011~12年からの13シーズンで8度リーグ優勝を果たすなど、オイルマネーがタイトルに直結した。その一方で2009年から2023年にかけて合計115件もの財務規定違反の疑いをかけられており、昨季達成したイングランド史上初のリーグ4連覇という偉業に影を落とした。 昨季の途中には過去に多額の損失があったエバートンが勝ち点8、ノッティンガム・フォレストが勝ち点4を剥奪された。リーグ下位で残留を争っている最中の処分は物議を醸したが、結果的に両チームとも降格は免れた。
裁定の根拠に不透明な部分もあり、16年前に勝ち点30剥奪という異例の厳罰を科された経験があるルートンのギャリー・スウィート最高経営責任者(CEO)は、エバートンとノッティンガム・フォレストへの処分について「犯した罪に対してふさわしい罰とは思えない。これだとルールを破ることを助長することになるので、そうではなくて抑止力にならなければいけない」と苦言を呈す。 長くチェルシーで活躍した元イングランド代表のグレアム・ルソー氏は、2003年に退団すると入れ替わりでロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチがオーナーに就いた。 古巣が圧倒的な資金力を武器に進化していった様子に「新しい練習場やアカデミーに投資して、トップチームも成功を収めたのは素晴らしい。でもどうやって?収入以上の資金を注入していた点には疑問符もつきまとう」と眉をひそめる。現在はスペイン1部リーグのマジョルカの経営陣に名を連ね、クラブ運営の難しさを肌で知るだけに「アスリートのドーピングと同じくらい、財政的なドーピングは競技のインテグリティー(高潔性)を傷つける」と強調した。 ▽伝統や文化を軽視した肥大化