伝統軽視の風潮にイギリス政府も介入 膨れあがるマネーゲーム、正解なき道【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑫完】
ビジネスとしての規模が急拡大してグローバル化が進む中で、これまで頓挫した計画もあった。2008年にリーグが全38節に追加して公式戦を海外で開催する通称「39試合目」というプランを発表したが、国際サッカー連盟(FIFA)をはじめ多くの反対により撤回した。2021年にはプレミアの6クラブを含む欧州の強豪12クラブによるスーパーリーグ構想が、サポーターを中心とした猛反発を受けて発表からわずか数日で立ち消えとなった。いずれもサッカーの伝統や文化を軽視したことに対する拒絶反応が決め手となったが、世界的にはワールドカップ(W杯)や欧州チャンピオンズリーグ(CL)など大会の改編や拡大により競技の肥大化が止まらない。 FIFAが主催するクラブW杯は新方式に刷新され、出場枠を現行の7から32チームに拡大して来年6~7月に開催。欧州のシーズン終了後に約1カ月の大規模な大会を実施することが過密日程を招くとして反発の声が多い。
各国・地域のリーグが加盟する世界リーグ協会(WLA)の会長を務めるプレミアリーグのリチャード・マスターズCEOはFIFAに対し、「聞く耳を持たないなら、最終手段を考えざるを得ない」と非難する。だが、皮肉にもプレミアリーグこそイングランドでは同じように権限と影響力が大きすぎると指摘される。 イングランド協会(FA)カップは引き分けの場合に再試合を行う伝統が昔からある。特に下部リーグのクラブにとって貴重な収入源となる風物詩だったが、2024~25年シーズンから撤廃されることが4月に発表された。プレミアリーグ勢の日程緩和が主な理由だったため、2~4部を管轄するフットボール・リーグ(EFL)や多くのクラブがプレミア中心の決定を非難した。 今季3部に降格したロザラムのポール・ダグラス最高執行責任者(COO)は「私はFAカップ委員会のメンバーでありながら、この件は一切議論されず報道で初めて知った。残念ながらこれがイングランドのサッカー界のパワーバランスを示している。多くの人々が流れ込んできたが、伝統よりもビジネスのことしか考えていない」と嘆く。