ネットで経済ニュースを読んでも、賢くはならない
ビジネスパーソンはなぜ日経新聞を読んでいるのか?
では、どうして「紙の新聞を読んだ方が勉強になる」と断言できるのでしょう。その第一の理由は、ポータルサイトの性格を考えると見えてきます。 ポータルにアップされる記事は、極論すると「利用者に情報や知識を提供する」ことを主眼に置いたサービスではありません。どちらかといえば、ゲームなどと同じく、「手軽な暇つぶしの手段を提供する」ことが、その本質だといっていいでしょう。 もちろん、結果としてユーザーが必要な知識や情報を得るケースもあるはずです。ただ、ビジネスとしては (1)ユーザーが時間をつぶすことができる軽い読み物を提供し(2)ついでに広告をクリックしてもらって収益を得る---というのが基本的な構造なのです。 ですから、掲載する記事を選ぶ際は、「なるべく幅広いユーザーの興味を引き、気軽に読める」ことが条件になります。たくさんクリックされれば、確率的にはそれだけ多くの広告収入を得られるのですから、これは当然のことです。 結果として、経済分野で取り上げられる記事も、ネットの主要利用層である若者が「おっ」と思ってくれるニュースが中心になります。最近だと「爆買い」とか「マイナス金利」のように、すでにテレビやネットで話題になっている言葉を見出しに入れられるような記事です。「こんなものが売れている」といった話題もよく選ばれます。基本的には、経済ニュースの流行を追っているだけ、というのが実情なのです。 断っておきますが、私はそうした記事に価値がないというつもりは全くありません。ネットに限らず、マスメディアが提供するニュースには多様な側面があります。一般的なジャーナリズム論では「権力の監視」や「真実の追求」が強調されますが、商品としての側面から記事を見れば、「暇つぶしの手段を提供する」「共通の話題を提供する」といった役割も非常に重要です。ほとんどの報道機関は、読者がそうした価値に対して払ったお金をもとにして、もうけにつながりにくいジャーナリズム活動をしているといっても言い過ぎではありません。 例えば、ビジネスパーソンの間で日経新聞が好んで読まれるのは、それがビジネスの場で話題にしやすいニュースを提供しているからです。 職場や取引先で政治問題について議論するのはヘビーすぎます。かといって中高生のように、テレビで観たドラマやアニメの話をするわけにもいきません。そんなとき、「今日の日経の1面、読んだ?」「ああ、すごいニュースが出てたね」といった会話は、とても無難なのです。そうした会話に「乗り遅れない」ために日経を購読している、という人は多いはずです。 ヤフー・ニュースなどのポータルも、こうしたコミュニケーションの潤滑油となる「共通の話題」を提供しているという意味では社会的に重要な役割を担っています。ですから、ポータルに掲載される経済記事も、そうした暇つぶしや話題のネタとして読むのであれば、とても有用だと思います。 しかし、「経済の仕組みや流れを理解し、分析力を磨く」といった、教材としての側面を重視するのであれば、ポータルサイトにはほとんど価値がありません。毎日読んでいれば、経済に関する雑学的な知識は増えるでしょうが、「ニュースを分析して先の展開を読む」といったビジネスパーソンが本当に必要とする力は身につかないでしょう。