ファミレスなのにファミレスっぽくない!お客の心を掴む㊙戦略
その試食会に訪れたのは、アメリカ領事館のマシュー・センザーさんと愛知フランス協会のオリヴィエ・オルティズさん。訪日観光客をメインターゲットとしているのだ。 まずは前菜。このあとの流れを作るためにも大切な料理だが、大谷の自信作はお麩。 「京都の『半兵衛麩』さんのもので、緑色が『よもぎ麩』、白いものは『あわ麩』です」 これを先述の八丁味噌につけて頂く味噌田楽だ。 そしてメインは150年以上続く老舗のこんにゃくを入れたすき焼き。ここにとっておきの仕掛けがあった。持ってきたのは綿菓子で、「鍋の中に入れてください」と言うのだ。「素晴らしいとしか言えない。完璧です。この仕掛けには驚いた」(オルティズさん)と、手応えは上々だ。 大谷を中心に、今後も出店へ向けてさらなる検討を進めることになった。 「今アメリカでは大谷さんがスーパースターですけど、こちらの大谷さんが我々の中でヒーローです」(鎌田)
コストカット主義と決別~不採算店が驚きの大変貌
鎌田がサガミとは違う方法で再生したのが「味の民芸」。古くから関東を中心に50店舗を展開している「和食ファミレス」だ。看板商品は「手延べうどん」。長時間熟成させた生地を人の手で丁寧に伸ばして作り上げたこだわりのうどんだ。 今でこそ多くの常連客からこよなく愛されている人気の店だが、かつては売上げが低迷し、赤字に陥っていた。 当時の状況をよく知る「味の民芸」町田成瀬店の店長・小山悦延は「間接照明はほぼ点いていなかったです」と言う。現場に押しつけられたのは徹底したコストの削減だった。そのため切れてしまった電球も取り替えず、味に直結する食材も次々と極力安いものに変更。あげくの果てには従業員の数も大幅削減し、現場は疲弊しきっていたという。 「歯がゆかったですね。本当に店として成り立っているのか、お客様を裏切っていないかと、自問自答していました」(小山) そんな状態の「味の民芸」を、鎌田は迷うことなく買収する。 「一緒になればお互いプラスになることは間違いない。勝算がかなりあると私は踏んだんです」(鎌田) その改革はサガミでのやり方とは大きく違っていた。それは、「部下を信じ、全てを任せること」。託されたのは当時、鎌田の右腕だったサガミホールディングス社長・大西尚真だ。 しかし、いざ店を訪れると、大西は大きな不安に襲われたという。 「赤字を出さない、損を出さないためにはどうするかということばかりで、料理の提供時間もかかっていたし、なかなか厳しいと思いました」(大西) 看板商品であるはずの「手延べうどん」も「正直、満足のいくうどんではなかった。なぜ看板商品のうどんが満足いくものではないのか。それが一番の疑問でした」。 再生への手がかりを探るため、大西はひたすら店舗を回り続けた。一筋の光が、現場で働く従業員たちの「店に対する思い」だった。 「もっと自分たちはおいしい料理を作りたいんです。でも今、現実的にできていない。それが悔しいです、という思いを皆さんが持っていた」(大西)