地滑り起こしたSNS情報 兵庫知事再選も疑惑は晴れず 書く書く鹿じか
パワハラ疑惑などで県議会から全会一致で不信任され失職した兵庫県の斎藤元彦前知事が、出直し知事選で再選された。それも次位に13万7千票もの大差をつける圧勝である。 10月27日に行われた衆院選では自民党が大敗し、自民と公明の連立与党が過半数割れした。11月5日の米大統領選は、トランプ前大統領の完勝だった。3つの選挙はスケールも意味合いも異なるが、共通点がある。新聞やテレビなど既存のメディアの予想が外れたことである。 選挙では優勢が伝えられる勝ち馬に乗る「バンドワゴン現象」や、劣勢の候補を応援する判官びいきの「アンダードッグ現象」が結果に影響を与えるとされるが、それだけでは説明がつかない。いずれもかつてない地滑り的な投票行動が起きた。 このコラムでも以前、斎藤氏を「将棋に例えるなら、すでに詰んでいる」と書いた。政党や団体の支援もなく、街頭に一人で立ち、頭を下げる姿に、ある程度の同情票は集まるかもしれないと感じたが、まさか大差で勝つとは思わなかった。不明を恥じる。 要因に挙げられるのが、交流サイト(SNS)を駆使した劇場型選挙である。「パワハラ疑惑などは捏造(ねつぞう)」といった斎藤氏を擁護する言説がSNSで取り上げられ、終盤の街頭演説には大勢の聴衆が群がった。神戸市中央区の選挙事務所前は「当選確実」が伝えられると、お祭り騒ぎになった。 投票率が前回を15ポイント近く上回る55・65%に達したのも、これまで選挙に行かなかった層をSNSが掘り起こしたからだろう。 トランプ氏も情報発信にSNSを多用する。米国の有力メディアは民主党寄りで、反トランプが多い。それらを「フェイクニュースを流している」と斬って捨て、対立候補のハリス副大統領を罵倒した。「移民がペットを食べている」などという、それこそフェイクニュースもあったが、真偽不明でもこうした過激な発言がトランプ氏らしいと、熱烈な支持者に受けた。 SNSは選挙を変えた。この新しい情報ツールを、いかに上手に利用するかが勝敗を左右する。新聞に関わる者として、SNSに負けたと認めるのは悔しいが、これだけは言っておきたい。