城氏が解説「なぜ鹿島は悲願のアジア制覇を果たせたのか」
見逃せないのがフロントの編成能力だ。 11日間で4試合を消化しなければならないほどの過酷なスケジュールを鹿島は、故障者が出た関係もあって、ほぼ15人で回してきたが、FWセルジーニョの補強がなければ、乗り越えることはできなかっただろう。今大会5得点。MVP級の活躍である。 大岩監督が教えてくれたが、実は、来日当初、練習を見たときに「ちょっと厳しいんじゃないか?」と感じるほど、技術力に疑問符がついていたという。 だが、セルジーニョを推薦した“神様”ジーコが、「練習で下手でも試合で使ってみれば活躍するから」と、強力プッシュ。大岩監督は、最初、渋々起用したそうだが、実戦になると一変、ゴールを量産した。 実は、こういう実践型選手というのは、ブラジル人選手に少なくない。私が横浜FC時代にジェフェルソン・クルーズというブラジル人選手がいたのだが、彼も練習では2メートル先のゴールを外してしまうくらいに“下手な部類”の選手だった。しかし、試合になると一変、素晴らしい決定力で点を取った。 セルジーニョをはじめとして、チームの適材適所に必要な選手を補強して、チームの総合力を高める鹿島フロントのチームマネジメント能力も間違いなく勝因の一つだろう。 大会MVPには、今回、森保ジャパンに初選出された22歳の鈴木優磨が選ばれた。全試合にスタメン出場。得点は2ゴールだけだったが、守備への貢献度、キープ力、攻撃陣全体をコントロールしたことなどがトータルで評価された結果だろう。 まだ粗削りだが、今後、大化けする可能性を秘めた選手である。ディフェンスを切り裂く突破力と、強引にシュートを打てる個の能力を持つ。なにより気持ちが強い。乗せると誰も止められないといった選手である。 だが、以前は、そこが空回りして、強引なシュートや、周りが見えず、エゴイズムだけが、先走るような選手だった。だが、今大会を通じて視野が広がり、周りを使えるようになってきた。今回、大きな経験と成功体験を得たことで、さらなるステップアップが期待される。勝利と共に若きストライカーが出てきたことも鹿島にとって大きな収穫だろう。 鹿島は12月12日からUAEで開幕するクラブW杯にアジア代表として出場する。最初にぶつかるのは、北中米カリブ王者のグアダラハラ(メキシコ)である。 初出場だが、メキシコの伝統あるクラブで、攻撃的でテクニカルなチーム。メキシコの典型とも言えるボールをつなぐパスサッカーのチームだから鹿島は十分に対応ができるし、どちらかと言えば噛み合う相手だと思う。 この試合に勝てば、準決勝の相手はシードされている欧州王者のレアル・マドリードとなる。2016年の決勝で、大激戦の末、2-4で敗れた相手。「リベンジマッチ」としてチームのモチベーションは当然のように高い。 鹿島の安定した守備力をもってすれば、ある程度は守れる。鹿島のような執拗なマークを徹底してくるチームを欧州の選手は嫌がる傾向にある。だが、問題は点を奪えるか、どうか。2年前の試合では、柴崎が覚醒した。そういう選手が出てくると面白い。覚醒するのは、鈴木なのか、それとも安部なのか。打倒レアルを果たす条件はそこだろう。 最後にひとつだけ苦言を。 鹿島の選手も嘆いていたが、Jリーグ優先の過密日程の問題である。クラブW杯でも、鹿島が天皇杯の準決勝まで進めば、日程が重なるため、今回は、天皇杯の日程を変更する処置が取られることになった。 ACLの最中にも同じように臨機応変なスケジュール変更の配慮があっても良かったのではないだろうか。アジアのサッカー勢力図は、どんどん変化している。韓国のクラブは強化されており、中国も強化にお金をかけている。アジアのトップに君臨するようなクラブを作ることが、Jリーグの命題であるのならば、チーム、選手の負担を考慮して、戦う環境を整えるべきである。 浦和レッズ、鹿島と2年連続で日本のクラブがACLを制覇した今だからこそ「過密スケジュールでも勝ったからいいじゃん」ではなく、しっかりとしたビジョンを掲げて最高のコンディションで戦うことのできる対策を講じるべきである。 (文責・城彰二/元日本代表FW)