イーサ現物ETFの上場と変化を迫られる米国の暗号資産規制
政治の追い風への期待
相次ぐ暗号資産現物ETFの上場承認に勢いづいた業界は、2024年6月から7月にかけて、いわば3匹目のドジョウを狙ってソラナ(SOL)現物ETFの上場申請に踏み切った。既にBTC現物ETF、ETH現物ETFを運用しているヴァン・エックと21シェアーズの2社が、Cboe BZX証券取引所への上場承認に向けて正式手続きを開始したのだ。 SOLは、現在、BTCとETHに次いで取引規模の大きい暗号資産だとされる。しかしSOLは、BTCやETHとは異なり、先物取引がCMEなど行政当局の監督下にあるデリバティブ取引所で行われているわけではない。BTC現物ETFとETH現物ETFの上場を承認したSECの論理に照らせば、SOL現物ETFの上場申請は却下されるに違いない。 それを百も承知で暗号資産運用会社があえてSOL現物ETFの上場を目指す背景には、政治的な追い風への期待がある。暗号資産関連ニュースサイトの論評記事は、上場申請書類の審査期間は240日以内とされているので期限が到来するのは2025年2月であり、その時点で共和党政権が誕生していればSECが承認するに違いないと踏んでいるのだと解説する(注2)。 このような観測が流れるのは、先日の共和党全国大会で同党の大統領候補に正式に指名されたドナルド・トランプ前大統領が、暗号資産業界に好意的な姿勢を急速に強めているからだ。 もともとトランプ氏は暗号資産に懐疑的で、大統領在任中の2019年には「ビットコインなどの仮想通貨の価値は薄い空気のようなもので、麻薬の密輸などの犯罪を助けるだけ。自分は支持者ではない」と主張していた。 SECは、連邦最高裁判所の判例で確立された「ハウイ基準」を援用しながら、いわゆるICOで販売されたデジタル・トークンからデジタル・アートなどで用いられる非代替性トークン(NFT)に至る様々な暗号資産や関連サービスが無登録の証券公募だとして摘発している(注3)。こうしたSECの行動は、ルールによる規制ではなく、経済活動の予測可能性を損なう「エンフォースメントによる規制」を用いた暗号資産業界潰しだとの怨嗟の声が上がるが、「ハウイ基準」を暗号資産に適用する手法を編み出したのは、トランプ大統領によって任命された共和党のジェイ・クレイトン前SEC委員長である。同氏は、退任直前の2020年12月、当時時価総額規模でBTC、ETHに次ぐ暗号資産とされたリップルのXRPが無登録証券だと主張する訴訟提起を主導し、業界の強い反発を招いた(注4)。 ところが共和党全国大会で採択された大統領選挙へ向けた同党の公約には、「民主党の違法で非アメリカ的な暗号資産抑圧(crackdown)を終わらせる」という文章が盛り込まれた。「ビットコインのマイニングを行う権利を擁護する」とも書かれている。副大統領候補に指名されたバンス上院議員は、多額のビットコインを保有する著名な暗号資産支持者だ。共和党に政権が移行すればSECも姿勢を変えざるを得ないという観測が生まれるのは理解できよう。