多くの人が忘れている…じつは「マメの消化」は、めちゃくちゃ時間がかかる。消化しにくい「大豆のタンパク質」をごっそり頂く「人類の凄すぎる知恵」
消化しにくい大豆タンパク質
タンパク質はそれぞれ個性的な20種類のアミノ酸が連結してできているので、タンパク質の性質も千差万別である。 卵の白身の主成分であるアルブミンや、牛乳の主成分のカゼインなどは柔らかく分解しやすいので消化も良いが、髪の毛の主成分であるケラチンなどは非常に固くほとんど分解できない。 タンパク質を消化するためには、胃液や膵液に含まれるタンパク質分解酵素が必要だが、固いタンパク質の塊は分解酵素がなかなか侵入できないため、分解に非常に時間がかかる。消化管の中を食物が通過する時間はおおむね一定なので、固いタンパク質は時間切れで分解されないまま排泄され、結果として栄養源とすることができない。 グリシニンなどの大豆のタンパク質は、長期間の貯蔵に耐えるために固い構造をしているうえに、難分解性の繊維質がガッチリ絡まっているため分解が難しく、煮豆などにして食べても半分以下しか消化できないと推定されている。
大豆タンパク質を摂取する「おいしい工夫」
消化が悪いと栄養価が下がってしまうので、貴重な大豆タンパク質の消化をよくするために、古来よりさまざまな工夫がなされてきた。 大豆のタンパク質が固まる前の未熟な状態で収穫したものが枝豆であり、ゆでて塩を振ると格好のビールのつまみとなる。大豆を砕いて煮出した汁を固めたものが豆腐であり、繊維質が除かれているためタンパク質が消化しやすくなっている。 大豆を暗所で水に漬けて発芽させたものが大豆もやしである。発芽に必要なエネルギーを得るために、大豆自身が貯蔵タンパク質を分解しているので消化がよくなっている。 大豆を煮たものに納豆菌を繁殖させたものが納豆である。大豆のタンパク質の一部を納豆菌が分解しているので、食べた人の消化が楽になっている。 さらに、大豆に麹菌と耐塩性の微生物を作用させてタンパク質をじっくりと分解したものが、味噌であり醤油である。醤油では大豆のタンパク質がほぼ完全に分解されてアミノ酸になっている。 微生物の作用により、難分解性のタンパク質を分解して消化吸収をよくし、栄養価を向上させることが、発酵食品の第三の意義である。 *次回のテーマは「酢」。殺菌や臭み消しに使われることが多いが、その働きのしくみを解説する。 ---------- 日本の伝統 発酵の科学 微生物が生み出す「旨さ」の秘密 ----------
中島 春紫(明治大学教授)