自分のやってきたことは消せない―― ASKAが歩く新しい音楽人生、引退決断から脱退まで
人生はやり直しがきかない。だから――
Twitterに「ASKA bot」というアカウントがある。過去にASKAのした発言を自動的に投稿してくれるbotだ。ある日、自分の発言を読んではっとしたことがあるという。 「30代の自分は『人生はやり直しがきかない』って発言しているんですよね。ぼくが事件を起こしてしまったのは、50代後半。人生80年だとしたら、もう折り返し地点は過ぎています。50年も生きていると、自分がどんな人生を生きてきたか。輪郭が見えてくるもので、あとからどうにかできるものではないんですよ。自分がやってきたことは消すことはできない」
こう続ける。 「人生いくらでもやり直せる。一からやり直せますよ――こんな言い方は嘘くさいと思うんです。誰かを励ます意味ではあり得ても、ぼくにとってリアリティーのある言葉ではありませんね」 もう元に戻らないことがたくさんある。そのことを知っている。ただ、こうも考えられるようになった。 「だから人生、面白いんだと」 この2年間、一人で活動するようになって音楽ビジネスの構造、課題で見えてきたことがたくさんある。これからのミュージシャンはどうやって生きていくべきか、考える時間が増えた。 「いまの若い子たちは、音楽で食べていくのが大変だから、グッズを作るとかそういう知恵をつけています。ただ、本来は音楽で食べていかないと。たとえば楽曲の原盤権を自分で持って、著作権管理を自分でやるとか、みんなもっと個人商店のようになって働いてみたらどうかと思うんです」
幸いにも、「音楽で食べることのできた世代」。積んできた経験を若い世代にどれだけ伝えていけるか。ASKAはいま、そのことに強い関心を持っているという。 10月、40年ぶりに剣道を再開したASKAは、北区剣道大会(東京都)の「一般男子60歳以上の部」に本名で出場。いきなり優勝し、話題になった。 「ある大学の剣道場に通っていて、若い部員の練習相手もしているんですよ。一緒に過ごす時間も多いので、同じ剣士として、練習仲間として、彼らにどんな言葉をかけるべきか考えます。いま、そのことが楽しくてしょうがないんですよね。自分にも若者だったときがありました。勢いのあるときは『何でもできるぞ』と感じられた。けれども、そうでなくなったとき『自分程度で何がきるのか』と思うこともある。……両方真理なんじゃないでしょうか。これまで生きてきていろんな経験をしましたが、いまは全てが必要なことだったと思えるようになりました。全てが通過点。最後は笑顔で死にたいですね」
ASKA(あすか)
1979年、チャゲ&飛鳥(のち、CHAGE and ASKAに改称)「ひとり咲き」でデビュー。ソロ活動、他のアーティストへの楽曲提供も並行する。ソロアルバムに「SCENE2」などがある。また、アジアのミュージシャンとしては初となる「MTV Unplugged」へも出演するなど、国内外から多くの支持を得る。2017年には、自主レーベル「DADA label」から、アルバム「Too many people」「Black&White」 等をリリース。来年の3月20日には新たなソロアルバムの発売も控えている。