斎藤知事が「誹謗中傷」を語る違和感
兵庫県知事選挙で再選した斎藤元彦知事が、知事の職に返り咲いたSNSでの誹謗中傷を抑止する条例案を検討する方針を発表した。これにライターの武田砂鉄は違和感を覚えるという。なぜか。 【写真を見る】投票率は55.65%。前回・3年前の選挙に比べて14.55ポイント高くなった。
*斎藤元彦知事、誹謗中傷対策の矛盾
ここから続く文章は2500字ほどあるので、読むのに5分くらいかかる。斜め読みでも2分くらいはかかるだろうか。面倒臭いと思ったなら、とても残念だけど、読んでいただかなくても構わない。「わかりやすく」「コンパクトに」「ハッキリと」、そうじゃなければ見てくれない・読んでくれない傾向が強まっているとしても、これまで時間をかけて伝えてきた既存のメディアがその流れに移行する必要はない。このままじゃいけないのか、もっと手短に断言しなければいけないのかと焦り、浮き足立った姿がまた、雑に断言しまくってガハハと嗤う流れの餌食になるだけである。 兵庫県知事選挙で再選した斎藤元彦知事が、当選後、SNSでの誹謗中傷を抑止する条例案の検討を進めると言及した。昨今、どんな選挙であっても、おびただしい誹謗中傷やデマがSNSを中心に流れるようになってしまい、真偽を見極める間もなく膨れ上がっていく。この状況下で、立候補した人間に最低限求められるのは、そういった拡散を自分の票獲得に活用しない姿勢だ。今回、斎藤知事は、当選を目的としないと宣言した上で立候補した「NHKから国民を守る党」立花孝志氏から放たれた乱雑な発信を放置し続けた。むしろ、活用した。斎藤知事が街頭演説する前後の時間に立花氏がやってきた。聴衆の多くはその展開を知っており、あたかもカップリングツアーのように堪能した。 立花氏の言動を問題視しているのであれば、そうやってカップリングツアーの構図で語られるのを拒んだはずだが、斎藤知事はそれさえしなかった。選挙戦の間、誹謗中傷を放置していた人が、選挙後、SNSでの誹謗中傷を抑止する条例案が必要だと主張したことになる。ただ、この条例案については、選挙後に言い始めたわけではなく、昨年から言っていたとのこと。ならばと調べてみると、2023年10月5日の斎藤知事会見にたどり着く。県のウェブサイトに発言がしっかりと残っている。そこにはこのようにあった。 「誹謗中傷や誤った情報の安易な拡散が、兵庫県全体、社会全体として好ましくない、是正すべきだということを、しっかりと県民に認識として持ってもらうことが条例化の大きな意義だと思っています」、まったくおっしゃる通りだ。是正すべきだ。続けて、こうも言っている。「エコーチェンバーという、フォロワーの中で同質のコミュニティを作り、そこに情報を広げ、それがいろんなターゲットに対して攻撃をすることが社会問題化している」、こちらもまったくおっしゃる通りだ。「同質のコミュニティ」の中で流れてくる情報を「真実」だと言い張り、即物的な正義感で特定のターゲットへのバッシングを生む。標的にされた人物は、生活がままならなくなるほどの被害を受ける。その標的が選挙の立候補者ならば、選挙結果に影響を与えてしまう。 再び、斎藤知事の発言を引く。 「私は公人ですから一定甘受せざるをえないところはあるのかもしれませんが、一方で、私人ですごく弱い立場の人がSNS上で、例えば、店の経営などであらぬことを言われたり、間違った情報を拡散されたり、恐らく辛い状況に置かれているという状況が、例えば、ガーシー議員の問題などでもありました」 誹謗中傷の事例として、「ガーシー議員」と具体名をあげている。ガーシー議員といえば、立花氏が政治の世界に引っ張り出した人物だ。彼が当選を決めた直後の映像を改めて確認してみると、「立花さんについてきてよかった」と興奮し、「いろんな起業家や芸能人のみなさん、それぞれ、覚悟していてください。やっと、選挙終わったから。こっから行きますよ。一切引かへんから、立花さん、ケツ拭いてくださいよ」とイキっていた。 その後は周知の通り。芸能人・著名人を吊るし上げるスタイルは一時的な熱狂に終わった。そうやって熱狂を作り上げる上で発生してしまった誹謗中傷を問題視していたのが誰かといえば、斎藤知事だった。それなのに、今回の選挙では立花氏の言動を問題視せず、むしろ、活用しながら当選を果たし、当選後になって、SNSでの誹謗中傷を抑止する条例案を検討すると言い始めた。違和感を覚える。