絶対味わうべき余市ワインの生産者3選と、北海道の自然派ワインを楽しめる札幌の名店へ!
山中さんのもうひとつ大きなチャレンジが、「自根」によるブドウ栽培も行なっていることだ。19世紀末にフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)というブドウの根を食い荒らす微小な虫が大量発生し、ヨーロッパ系のワインブドウ品種は壊滅に近いダメージを受けた。以降、世界のほとんどのワイン用ブドウはフィロキセラに抵抗力を持つアメリカ系品種に接木することで虫害を防ぐという打開策をとっている。 しかし、ドメーヌ・モンは日本でも数少ない、接木をしない「自根」によるブドウ樹でワインを造っている生産者のひとりだ。これまで余市でフィロキセラが出たという記録はなく、一説によれば雪が溶ける時に土中に水が流れ込み、虫が窒息死するのだという。リスクもある選択をあえて選ぶ理由を、山中さんは「おもしろいからです」と朗らかに語る。 「台木への接木が当たり前になったブドウ栽培に比べ、自根のブドウは"野生感"がすごく、ひと言で言えば木が"暴れます"。栄養が分散してしまう脇芽が出やすく、花震い(花が咲くのに実が落下したりすること)や結実不良を起こしやすい。2023年は収穫量自体が少なく、昨年収穫分を追熟させているような状態です。それでも自根のブドウからできたワインからしか得られない、質のおもしろさがあります」
「ドメーヌ・モン」の「ピノ・グリ」なので、ワイン名は「ドン・グリ」、自根のものには「ドン・グリJK」と名付けた。畑の周りには楢の木も茂り、秋には実際にドングリが転がる景色も広がるのだという。 グラスを満たすのは、淡い琥珀色をした「ドン・グリ」の最新ヴィンテージ。白い花の香りに生姜やシナモンのようなスパイス感が。口に含むと、ほんのりとした甘味の後にコクのある旨味がぐわっと広がり、つい笑みがこぼれる。そして、自根のピノ・グリから造られた熟成中の「ドン・グリJK」を特別に試飲できることに。スパイスの奥に、土の香りもあるようなニュアンス。最初はちょっとミネラルのような硬さを覚えたが、その後にじわじわと開き、最後には旨味とともにやわらかさが口を駆け巡る。甘く、ほろ苦い、このボトルでしか味わえない感覚だ。 「余市はウニもおいしいです。余市のテロワールで生まれるピノ・グリと、ウニのような旨味たっぷりの海産物の組み合わせは、とてもおすすめです」 ドメーヌ・モン https://domainemont.com 北海道余市郡余市町登町898 ※畑、ワイナリーの一般見学はおこなっていません。