<英総選挙>ユーロ圏撤退か残留か EU離脱の方向性が焦点
イギリス総選挙の投票がスタートした。欧州連合(EU)離脱におけるハードブレグジットの是非や国内のテロ対策などが争点となる中、各政党が議会下院(定数650)での議席増を目指して選挙戦を続けてきた。当初は保守党の圧勝に終わるだろうとの見方が強かったものの、選挙が近づくにつれて、世論調査では野党労働党の追い上げも顕著に表れ、今回の選挙は接戦になるだろうとの予測も。保守党が大勝しなかった場合、2020年に予定されていた総選挙を前倒しで実施したメイ首相の責任問題に発展する可能性や、EUからの離脱に向けた交渉が難航化すると見られている。今回の総選挙の争点を振り返る。 【写真】「ハードブレグジット」「単一市場」とは? EUと英国の複雑な関係
「ハードブレグジット」を掲げるメイ首相
今回の総選挙は本来2020年に実施される予定だった。メイ首相も2020年まで選挙を実施することはないと発言していたが、4月18日に緊急声明を発表。約3年前倒しする形で、6月8日に総選挙を行う意向を明らかにした。その後、議会での承認を経て正式に決定した。メイ首相は枠内無関税などのメリットがあるユーロ圏からも完全に撤退する「ハードブレグジット」をEU離脱における方針として掲げているが、労働党を含む野党は単一市場のユーロ圏には留まる方針を掲げており、EU離脱そのものは既定路線だが、どのような形で離脱するのかは選挙後に各政党が獲得した議席数で大きく変わる可能性がある。 総選挙では与党の保守党と最大野党の労働党が、どれだけの議席を獲得するのかに注目が集まっているが、メイ首相も労働党のジェレミー・コービン党首も、党首として総選挙を迎えるのは今回が初となる。昨年6月に行われたイギリスのEUからの離脱を問う国民投票で離脱派が勝利したことを受け、当時のキャメロン首相は辞任を表明。その後行われた保守党の党首選挙には当時内相であったメイ氏を含む5人が立候補したが、撤退する候補が相次ぎ、メイ氏は決選投票を行わないまま党首に選ばれ、新しい首相に就任している。昨年の国民投票でメイ氏はEU残留に票を投じているが、国民投票の結果を受け、EU離脱が不可避となった状況でハードブレグジットを選択している。 労働党のジェレミー・コービン党首は、2015年の総選挙における労働党の大敗で当時のミリバンド党首が辞任を表明したため、その後行われた党首選に出馬した。当初は泡沫候補と見られていたが、1回目の投票で6割近くの票を得て、そのまま党首に選ばれている。これまでの労働党は、中道左派に位置付けられる人物がリーダーに選ばれていたが、コービン党首はこれまでの労働党党首よりも社会主義色が濃い人物で知られている。EUとの経済的な結びつきは残してくべきだと主張するコービン氏だが、もともとはEU懐疑派として知られており、EU残留派の多い労働党の党内事情を考慮してか、党首就任後はEUとの結びつきを重視する発言を繰り返している。 EU離脱について、保守党は単一市場や関税同盟から完全に撤退する姿勢を明確にしている。すべてをリセットした上で、EUとあらためて自由貿易協定の締結に向けて話し合いを行いたい意向だ。一方の労働党はEU離脱には同意しているものの、ユーロ圏へのアクセスは維持する姿勢を打ち出している。医療・福祉に関する政策も大きく異なる。保守党政権による財政緊縮策で福祉関係の予算や人員は大幅に削減されてきたが、保守党は今後5年間で医療・福祉関連予算を80億ポンド増額すると発表している。労働党は以前から保守党の財政緊縮策を批判しており、300億ポンドを投じて国民保険サービスの改善を図る構えだ。