ビヨンセから衣装の依頼が…パリコレの影響力を、「ANREALAGE」デザイナー・森永邦彦が語る
パリコレにこだわる理由とは?
後から判明したのだが、服の色がしっかりと変化しなかった原因はフランスで用意した照明にあったという。何でも、日本でテストした照明と同じモデルを使用したのだが、型番が新しく、紫外線をカットするタイプだったため、フォトクロミックがうまく反応しなかったのだとか。 こうして恩人・神田さんの助言もあって、どうにか初のパリコレで成功を収めた森永さんは、以来、10年間毎シーズンパリコレに参加している。 それにしても、ファッションの世界ではパリのほかにもミラノ、ロンドン、ニューヨーク、そして東京を含めた5大コレクションが存在するが、なぜ彼はパリコレにこだわっているのだろうか? 森永:都市でいえば、もちろん、ミラノやニューヨークも引けを取りません。しかし、時代を変えていくエポックメイキングなコレクションは、パリから生まれることが多いんです。その10日間には、ファッションに命を懸けているような人たちが集まってきますし、そもそも、フランス自体が文化的にパリコレクションを軸に国の経済を回している側面さえありますからね。たとえば、東京を発信基地として自分の作ったものを世界中の人に届けることは難しい。ですが、パリコレクションで発表すれば、その日のうちにどのブランドがどんな服を発表したかという情報が全世界に届きます。そんなふうに、大きなファッションの渦を生み出すことができる大変価値のある場所なのです。 世界中のファッション関係者が注視するパリコレ。森永さんはその反響の凄まじさを、最近届いた世界的歌姫からのオーダーで思い知らされたようだ。 森永:先月9月末には24年の春夏コレクション、その半年前の3月には23年の秋冬コレクションを発表したのですが、3月のときは様々な反響をいただきました。実際にコレクションが行われたのは300~400人を収容する程度の小さな会場だったんですけど、話題がグローバルに駆け巡り、その翌日にはビヨンセからワールドツアーの衣装を作ってほしいというオファーを頂戴したんです。そういうところにまで届くような影響力を持っている場は、なかなかないと思います。 ビヨンセチームと話し合った結果、出来上がったのは、一着で二着の表情を持つローブです。衣装を着替えるのではなく「色を着替えていく」という発想のもと、僕らが手掛ける特殊な糸で、肉眼では真っ白に見えるものの、光が当たるとステンドグラスのようにカラフルに色が変化するという衣装を作りました。つまり、実際は着替えていないけど、光を当てて着替えたように見せる……という演出ですね。ビヨンセのワールドツアーは2023年5月10日~2023年10月1日に実施され、会場ごとに衣装を変えているのですが、このANREALAGEの衣装はすべての会場で着用していただけました。