ビヨンセから衣装の依頼が…パリコレの影響力を、「ANREALAGE」デザイナー・森永邦彦が語る
生地屋でのバイトで見出した、パッチワークの可能性
寝る間も惜しんでファッションの勉強にのめり込んでいった学生時代の森永さん。彼がアルバイト先に生地の販売店を選んだのも、また必然だったのかもしれない。 森永:バンタンでファッションの勉強をしてはいましたが、夜間なので、昼間の学生よりも学べることが多くありません。そこで、どうせアルバイトをするのであれば、仕事を通して専門学生が学べないことを吸収しようと考え、生地屋さんで働き始めたんです。 お店さんには、日々、様々なお客さんが生地を裁断しにいらっしゃいました。その中で、必要とされない端切れや余りが、毎日結構な量出ていたんです。もちろん、そういった小さな生地では洋服を作ることが難しく、すべて捨てられてしまう。そこで、当時洋服を作るための生地を買う十分な資金がなかった僕は、店長に許可を得て、それらを持って帰ることにしました。そうなると、多種多様な素材が僕の家にどんどん溜まっていくことになる。一つひとつが小さく、一枚のテキスタイルにするのは相当な時間を要します。しかし、時間をかけて縫っていけば、どうにか服を作れることがわかりました。そんなふうにしてこのとき、今の「ANREALAGE」のパッチワークの原型のようなものが出来上がったんです。
フリクションボールペンから生まれた洋服のアイデア
ファッションの世界には「流行色」が存在し、毎シーズン、各ブランドやメーカーがその色を取り入れた新作を作っている。つまり今年流行の色は、来年になると古い色になってしまう……というわけだ。「色に新しいも古いもない」。そう考えた森永さんは、一着の服を多様な色へ変化させられないかと思案するようになる。 森永:空の色が朝から夜にかけて変わるように、葉の色が緑から紅葉を経て枯れていくように、色が変わる洋服を作れないかと考えました。ちょうどそのとき、フリクションボールペンを使っていたんです。フリクションはこすると消えるのではなく、こすることで発生した摩擦熱により、インクが色付きのものから無色透明に変わるという原理を採用しています。このフリクションのインクと洋服の染料が似ていると感じた僕は、「フリクションのボールペンを割ってインクを集めて服を染めたらどうなるか?」と考え、実験してみたんです。ただ、それはあまりうまくいきませんでした(笑)。その次に、フリクションのインクを作っている製造元へ「このインクを用いて服の染色をしたい」と問い合わせをしました。そのあたりから協力者が現れるようになりましたね。そんな中で、摩擦熱を用いるのではなく、人が室内から外に出て光を浴びるなど、ファッションに起こり得る現象で色が変わるようにしようという方向になり、今のフォトクロミックの洋服が出来上がりました。