ビヨンセから衣装の依頼が…パリコレの影響力を、「ANREALAGE」デザイナー・森永邦彦が語る
初のパリコレで絶体絶命のピンチに
ファッションの世界にあった「流行色」という概念に疑問を持ったことから、森永さんは、光に反応して発色する素材「フォトクロミック」へたどり着く。2014年には、この素材で染色した糸により織られた服で初のパリコレに挑むことになる。テーマは「SHADOW=影」。白いドレスが光を当てると黒に変化するという画期的な演出だ。 事前に日本でテストを繰り返して万全の体制でパリに渡ったのだが、パリの会場リハーサルでは、なぜか色が十分に変化しないという絶体絶命のピンチに追い込まれてしまう。そんな窮地を救ったのは、森永さんがファッションへの道へ進むきっかけとなった神田恵介さんだった。 森永:僕は顔面蒼白で、声も出ないくらい追い詰められていました。だから、神田さんに「ダメかもしれません。この服自体を出すのをやめます」と言ったんです。当然「えー!?」みたいになって(笑)。そのとき、実際に光を当ててみたのですが、本来、白から真っ黒になるはずの洋服が、ほんのりうすいグレーにしかならない。淡いグレーであれば誰も、ビフォア/アフターの差に気付かないからやめると切り出したのが、ちょうどショーが始まる1時間くらい前のことでした。リハーサルももうできない状態だったのですが、そんなときに神田さんが「黒にすることがテーマじゃない。影を表現することに挑戦したらどうか?」と提案してくれたんです。 そこで、モデル2人をぴったり背中合わせに重ね、外から強い光を当てることにしました。2人が離れた際、身体や手など、光が遮られた箇所に陰がもしかしたら映るかもしれない――。そんな可能性にすがり、本番に挑んだんです。ショーが始まって1分くらい、モデルに光を当てている間は、静寂の時間でした。僕がいたのは、表の様子が見えないバックステージ。「まったく伝わらなかったらどうしよう……」「結局、白い服が白い服のままだったら……」と不安が募ったのですが、1分後に大きな歓声と拍手が沸き起こりました。戻ってきたモデルの服にはくっきり影の跡が残っていて、見ているお客さんからしたら「影を焼き付けるってどんな洋服なんだ!?」と思ったようで、結果的に大成功したんです。というわけで、神田さんの一言によって、生き延びられたわけです。