「統合作戦司令部」設立で自衛隊の戦い方はどう変わる? ついに始まる「70年目の大改革」を『シン・ゴジラ』のケースでプロが解説!
* かつて統合幕僚学校長を務めた金沢工業大学大学院(虎ノ門キャンパス)教授の伊藤俊幸氏(元海将)が解説する。 「自衛隊の将官は一般省庁の局長級と同じく、内閣官房長官人事の『指定職』となります。統幕運用部長は『指定職1号』(自衛隊内の階級とは別の、公務員としての役職階層)で、この会議では一番下。陸海空各幕僚長は『7号』ですから、子が親に物申すようなもの。ちなみに統合幕僚長は最高位の『8号』です」 * 結局、運用部長の意見を統合幕僚副長(3号、映画では二つ星)が取り入れ、総理官邸で防衛大臣の横に控えている統合幕僚長に伝達した。 それを受けて、統合幕僚長は総理大臣、防衛大臣に対してゴジラ迎撃作戦案を説明する。しばらくの混乱の後、総理大臣から防衛出動命令が下され、統合幕僚長はもうひとつの任務、陸海空自衛隊の指揮を執り始める――。 ■東日本大震災での「7:3」の教訓 このように、現状の組織編成では有事の際、統合幕僚長(『シン・ゴジラ』で演じていたのは國村隼)が担う役割が多すぎるのだ。 映画の中だけでなく、現実にもこうした問題は起きていた。前出の伊藤氏が言う。 「2011年3月の東日本大震災における大規模災害出動を指導した、当時の折木良一統合幕僚長が、『総理・防衛大臣の補佐が仕事の7割で、現場部隊の指揮指導には3割程度しか割けなかった』とおっしゃるのを私は直接聞きました。このことがきっかけとなり、統合幕僚長と統合作戦司令官を分ける組織改編の議論が本格化したのです。 私が統合幕僚学校長を務めた際は、こうした変化を見据えて、陸海空の学生たちを、すでに統合作戦司令部を設置していた英・豪軍で研修させました。あれから10年、彼らが議論の中核を務めたからこそ、今回の設置につながったのだと思っています」 では、組織改編後の自衛隊ではどんな役割分担が行なわれるのだろうか? 「戦後『参謀』という言葉を使わなくなり、自衛隊では『幕僚』と呼んでいますが、統合幕僚長を含めた4人の幕僚長の役割は、自衛隊の最高指揮官たる総理大臣・防衛大臣に軍事的な助言を行なう参謀の長ということになるのです。英語ではチーフ・オブ・スタッフです。 一方、部隊指揮のほうは、総理大臣の下にいる防衛大臣に直接ぶら下がる統合作戦司令官が担当することになります。その隷下には三つ星の陸上総隊司令官、自衛艦隊司令官、航空総隊司令官が所在し、彼らを通じて隷下部隊を指揮することになります」(伊藤氏)