「名古屋いいとこだよ、めっちゃ好き」 食堂の名物おかみ、実はガンビア総領事
日本で暮らすガンビア人は98人(法務省による)。ムサさんのような社会人や留学生、日本人の配偶者などさまざまだが、彼らはみんな、なにかとビントゥさんを頼り、相談ごとを持ち込む。「日本のアフリカンボスって呼ばれてる」なんてビントゥさんは冗談を言うが、それは彼女が来日30年で日本社会に溶け込んでいるから、というだけではない。ビントゥさんはガンビア共和国・在名古屋名誉総領事でもあるのだ。
日本でただひとり?の「ボランティア領事」
領事。辞書を引いてみると「外国に駐在し、自国民の保護や、通商の促進にあたる国家機関」とある。大使と同様に外交官なのだ。ビントゥさんのような「名誉領事」とは、大使館や領事館が置かれていない国において任命され、外交官の仕事を代替する立場、だろうか。日本にはガンビアの大使館も領事館もない。在日本セネガル大使館が兼務している。そこへ2015年、ビントゥさんは名誉総領事として任ぜられ、「自国民の保護」「通商の促進」等々にあたっている。食堂のおばちゃんのように見えて、オフィシャルな存在なのである。パスポートもちゃんと外交旅券だ。 「これ持ったとたんにどこの国のイミグレーションも態度変わっちゃってさ。ハイ、マダムなんて」
業務は多岐にわたる。在日ガンビア人がパスポートを紛失したときの対応、子供が生まれたときの出生手続きや結婚の手続き、各種困りごと相談……。 「私が結婚したときも彼女に書類をつくってもらったんです」とムサさん。 ガンビアから国際会議で要人が来るとなればアテンドし、ガンビア進出を目指す日本企業からのたびたびの問い合わせにも応じる。日本の外務省からもことあるごとに連絡が入る。それにガンビアを訪れる日本人にビザを発給するのもビントゥさんなのだ。そして取材時は、東京五輪の選手と関係者の受け入れに大わらわなのであった。 「こんなことになると思わなかった、ホントたいへん、たあいへん!」 そもそもビントゥさんが日本に来たのは30年前、当時留学生だった夫についてきたからだ。卒業後、夫は名古屋で英語学校の運営を始めた。一方、ビントゥさんは名古屋女子大学でやはり英語教師となったが、「大使館のない不便さ」を常々感じていた。 「セネガル大使館に行ってもガンビア人は後回し。ガンビア進出を考えている日本企業や、支援をしたいって団体がいるのに、窓口がなくて困っていました」