「名古屋いいとこだよ、めっちゃ好き」 食堂の名物おかみ、実はガンビア総領事
相変わらずそんなことを話し続けるビントゥさんは、続いて「ドモダ」を運んできてくれた。骨付きチキンをピーナツバターで煮込んである。食欲をそそる香りにたまらず食べてみると、ドモダもスープカンジャも確かにご飯によく合うのだ。スパイシーだが辛すぎることもなく、優しい味わいで日本人の味覚にとってもマッチする。 「これがいちばん得意。日本だとなんていうかな、炊き込みご飯?」
さらにトマトとスパイスで牛肉を炊き込んだ「ジョロフライス」が、どかんと置かれる。 「ほかのアフリカの国でもつくるけど、オリジナルはガンビアとセネガルなの」 ジョロフとはガンビアやセネガルで広く話されているウォロフ語で「ふるさと、国」といった意味。「来月ジョロフ帰ります、みたいな使い方するね」というから、ジョロフライスはソウルフード的な料理でもあるのだろう。これまたいける。つまり店名の「ジョロフ・キッチン」とは、「ふるさとの台所」というわけだ。
料理はどれもこれもおいしくて、やたらとご飯が進む。 「いっぱい食べてもらえると、すっごいうれしい」 ようやく自分もテーブルについたビントゥさんは、にっこりと笑った。大きな花のような笑顔だった。
セネガルに囲まれた自然豊かな国
食事をいただきながら、店の壁にかけられたガンビアの地図を見てみる。東西に細長い。ガンビア川の流域を、そのまま領土にしたような形だ。秋田県と同じくらいの面積で、人口およそ228万人。大西洋に注ぐ河口のほとりに首都バンジュールがあり、国の周囲はセネガルにぐるりと取り囲まれている。
「ガンビア川を有用だと考えたイギリスが、川沿いを植民地にしたんです」 そう話すのはやはりガンビア人のムサ・ジョンさん(36)。近くの中学校で英語教師をしている。日本人女性と結婚した縁で来日してまだ1年だが、学校の子供たちとはずいぶん仲がいいようだ。 ムサさんの解説によればイギリスは18世紀、ガンビア川を押さえて植民地としたが、その周囲はぐるりとフランスが支配した。やがて1960年代になってから、イギリス領はガンビアとして、フランス領はセネガルとして独立。こうして不思議な形の領土のまま、いまに至っている。もとは同じウォロフ語を話す文化の似た民族ながら、ガンビアは英語圏、セネガルはフランス語圏に、さらに互いをライバル視する間柄ともなったらしい。 「セネガル人はガンビアを海しかないってバカにするの」 ガンビアはセネガルに比べると国土も経済規模も小さい。なにかと下に見られてしまうようだが、その海は観光資源でもある。「スマイリング・コースト」と呼ばれる美しい海岸線にリゾートホテルが点在しているそうで、コロナが明けたら行ってみたいものである。