「退院後、家族の手助けがない…」母親を孤立させないための“最新産後ケア事情”
妊婦健診ではなかなか聞きたくても聞けない話から、お医者さん側の本音まで。現役産婦人科医・遠藤 周一郎先生がわかりやすく解説します! 妊娠~出産~産後の不安&疑問をどこよりも丁寧に解説した妊娠・出産ガイド『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』。無痛(和痛)分娩の話や高齢出産について、卵子凍結の話などの最新情報や、ぜひ男性に読んでほしいパパ向けの内容も収録。今回はその中から「産後」の気になるトピックをご紹介します。 「産後うつ」と「マタニティブルー」は全くの別物! 現役産婦人科医が教える、乗り切り方
広がりを見せている産後ケア施設だけれど…
近年、産後ケア施設・事業が大きな広がりを見せつつあります。私が以前働いていた大学病院でも、自治体と連携して産後ケアの取り組みに早い時期から着手していました。ひと口に産後ケア施設といってもその形態は千差万別です。ホテルが部屋を提供していたり、セレブ御用達の民間施設があるかと思えば、総合病院で入院期間の延長のようなケアをしたり、助産院が運営しているところなど......。そのため、ケア施設を探しても、戸惑ってしまうことも多いかもしれません。 そもそも産後ケアの取り組みは日本よりも海外でメジャーでした。日本でなかなか広がらなかった大きな理由のひとつに、入院期間の長さがあります。産後1、2日で退院となる国が多い中、日本の産院の入院期間は1週間に及ぶこともあります。その間、日本の産院では1日3食の食事が提供され、授乳や沐浴を学び、産後の生活についても助産師から指導を受け、退院前には医学的診察まで行われます。日本の長い入院期間は、海外における産後ケア的な役割を担っていたとも言えるのです(長い入院期間がいいか悪いかはともかく)。 1週間いろいろなことを学べば母親として独り立ちできるかというと、もちろんそんなことはありません。育児なんてわからないことだらけですし、マイナートラブルだって数えきれないほどあります。それに加え、核家族化も進んだうえに、1人しか子どもを持たない家庭も増えてきていて、産後の女性や家族が孤立しやすい状況に変化してきているのです。 産後ケアの一丁目一番地は、そういった産後女性の孤立を防ぎ、包括的ケアをすることなのです。母乳・育児指導だけでなく、家庭環境の悩み事の相談に乗ったり、適切な福祉施設や人材を紹介したりと、その役割はさまざまです。 産後ケア施設には、大きく分けて、宿泊型と日帰りのデイサービス型があります。まだ日本では浸透していませんが、訪問型の産後ケアという形態もあります。それぞれの自治体で取り組み方も違うし、助成回数、金額、範囲も異なります。出産前に情報を集めておきましょう。 これら自治体の取り組みは、いわば福祉のセーフティーネットにあたります。このようなシステムは網の目のように張り巡らせておくことが大切で、困った人がどこかの網にタッチしたら、そこに関わる人たちが、適切な施設、団体に適宜つなげていくしくみです。となると、頼る側は、積極的に網にタッチすることが大事! 退院して自宅に帰ったものの、不安が増してどうしていいかわからない! そんな場合は、まずは自治体の産後ケア事業の門を叩くのがよいと思います。出産・育児は、孤立しないことがなにより重要なのです。