ROSSOはチバユウスケの重要な結節点に 詩情と激情のロックンロールで駆け抜けた3年間を総括
〈この星にメロディーを/あの子にキスを/君にロックン・ロールを/それだけで生きてけんのは ちっとも不思議じゃねぇよ〉(ROSSO「アウトサイダー」) 【写真】ミラーボールが背後に輝く美しいチバユウスケのライブ写真 2022年10月16日。チバユウスケのソロ名義、YUSUKE CHIBA -SNAKE ON THE BEACH- 4作目のアルバム『SINGS』のリリースを記念して行われた写真展が最終日を迎えた。終了時刻が迫るギリギリの時間に足を運んだところ、彼がひょっこりとギャラリーに現れるところに出くわした。静寂、息を飲む音、居合わせたファンたちからはちょっとしたざわめき。チバはおもむろにレジに入ると、お客さんとの気さくな会話を楽しみ、TシャツやCDにサインをしていく。筆者が『real light real darkness』を手に取ると、嬉しそうに「名盤!」と言っていた姿が印象的で、その笑顔はなんともThe Birthdayの音楽を象徴しているように思った。亡くなる1年と少し前のことだった。 7月28日、ROSSOの全音源がサブスクリプションサービスで解禁された。活動期間は2001年末から2002年の夏頃と(第一期)、休止期間を挟んで再始動した2004年の2月から2006年の6月まで(第二期)。併せても3年ほどの短い期間でありチバユウスケのキャリアを熱心に追いかけていたファンでない限り、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやThe Birthdayに比べて馴染みの少ないリスナーが多いのではないだろうか。最初に白状しておくと、私がROSSOの音楽に出会ったのも2006~2007年頃。すでにバンドは解散した後だった。 このバンドが生まれたのは2001年の暮れ、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが6作目のアルバム『ロデオ・タンデム・ビート・スペクター』をリリースした年の終わりだった。メンバーは前年に解散したBLANKEY JET CITYのベーシスト 照井利幸と、ASSFORTのドラマー MASATO、そしてチバの3人である。最初の作品は2002年4月に発表されたアルバム『BIRD』。結果的にはこの体制で録音した唯一の作品である。後の作品と比べると無骨ともシンプルとも言えそうな作風だが、力強くドライブしていくベースは何度聴いてもカッコいい(というか、全作品において、彼のベースはサウンド上の中心にあるように思う)。そしてROSSO史上最もポップな楽曲と言ってもいいだろう、彼らの代表曲である「シャロン」はここに収められている。〈サンタクロースが死んだ朝に〉というリリックから始まるこの曲は、12月の澄んだ空気の中を駆け抜けていくような疾走感のある1曲で、歌詞には寂寞感が滲んでいる。が、その哀しみさえもこの曲のスピードで乾いていくのだろう。チバらしいロマンチックな詩情と両義性を持った楽曲だ。なお、余談だがこの頃のROSSOについて、チバは後に「今までの音楽人生の中で唯一のトリオ・バンドだった。あんなにも一生懸命ギターを弾いたのは、あとにも先にもあの時だけだよ」と語っている(※1)。 ROSSOが再始動したのは2004年、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが解散した翌年である。照井のソロプロジェクト・RAVENのアルバム(『限り無く赤に近い黒』)にチバが参加したことも導火線のひとつになったようで、メンバーはドラマーのMASATOが脱退、元フリクションのギタリスト・イマイアキノブとドラマー・サトウミノルを加えた4人体制になっている。短い期間ながらもシングル、アルバム、ライブ盤、映像作品をリリースしたこの頃は、ROSSOが精力的に過ごしていた時期と見ていいだろう。 2004年の7月からレコーディングを開始した彼らは、同年11月に初のシングル『1000のタンバリン/アウトサイダー』をリリースする。なんと言ってもこの「1000のタンバリン」がヤバすぎる。これはROSSOにおける最大の名曲であるばかりか、チバのキャリアの中でも類稀なる1曲だと言い切りたい。自身の身さえ焼け焦げてしまうんじゃないかと思わせるような熱量を持つ、ヘヴィなアンサンブルで聴かせる漆黒のロックンロール。切迫感のある歌唱は凄まじいの一言で、モノクロのMVに映る長髪姿のチバがその不穏さを引き立てる(一体誰がこの14年後に、〈お前の未来は きっと青空だって/言ってやるよ〉と歌うことを想像できただろう?)。だが、それ故に満天のメロディは輝くのだろう。〈やがてスコールは降り止んで/鳥達はまた飛んだ〉、〈そして見上げれば1000のタンバリンを/打ち鳴らしたような星空〉という歌がどうしようもない高揚感を生んでいる。まるでこの瞬間だけは重力からも解き放たれているようで、それは大袈裟に言うのなら、「目に映る景色がこの瞬間に全て塗り替わるんじゃないか」と思わせるような無上の興奮だ(だからこの曲と同じだけのエネルギーを、ポジティブに転換したものが〈とんでもない歌が 鳴り響く予感がする〉と歌うThe Birthday「くそったれの世界 」だと思っている)。 『Dirty Karat』(2004年12月)はとことんヘヴィなアルバムだ。全編を通して貫かれる火花を散らすようなアンサンブルにはスリルがあり、その緊迫したムードからは否が応でも焦燥感が沸き立ってくるはずだ。イマイのギターは作品のソリッドな側面を強調し、重戦車のようなドラムと腰に来るベースも極上。本作のゴツゴツとした質感や荒々しさは、チバのプロジェクトの中でも突出しているのではないだろうか。この4人で作ったスタジオ作品のジャケット写真はすべてモノクロを基調としており、彼らはまるで色のない世界で終わらないセッションを楽しんでいるようである(ちなみにドキュメンタリーをメインに、いくつかのライブ映像とMVを収めたDVD作品『Muddy Diamond Sessions』も、そのほとんどの映像がモノクロである)。