ROSSOはチバユウスケの重要な結節点に 詩情と激情のロックンロールで駆け抜けた3年間を総括
「ブランコ」で歌われるROSSOの“行く末”
念のため『Dirty Karat』から2カ月のスパンで発表された『バニラ』(2005年2月)も紹介しておこう。こちらはZAKをエンジニアに迎えて録音された4曲入りのシングルであり、小品と言えば小品だが、とりわけ「バニラ」と「ブランコ」は一聴に値する秀作である。前者は渋みと色気を持ったリズム隊、楽曲の熱量をブーストするようなイマイのギターがカッコよく、内部から爆発していくような後半の展開に痺れる1曲だ。 そして後者はチバの優れた詩情を感じるフォーキーな1曲で、原型は『Dirty Karat』に収録された弾き語り調の「人殺し」である。メンバーから「この続きを聞きたい」と言われたチバが歌詞をつけ足し、4人のバンドアレンジを施すことで「ブランコ」として再生。 〈二人は恋人 名前を知らない(中略)青すぎる あの牧場に行くつもりだったけれど/この列車は そこまでは着かないんだって/その時は 知らなかった オマワリ達が そこら中で〉(ROSSO「ブランコ」) 逃げる場所も帰る場所も失った恋人たちの、どうにも暗い行く末を思わせる楽曲である。今にしてみるとまるでこのバンドの行く末を暗示するようでもある。ROSSOは実験色を強めた4曲入りのアルバム『Emissions』(2006年6月)のリリースと同時に活動休止を発表。本作のリリースから僅か2カ月後にはThe Birthdayの1stシングル『stupid』が発表され、そして二度とこのバンドが動くことはなかった。 それにしても、この頃のチバユウスケの叫びはなんだろう。「バニラ」のボーカルに至っては、ほとんど殺気立ったテンションすら感じてしまう。キャリアの中でも一際荒々しい濁声を聴かせている時期だったと言えるのではないだろうか。そしてその印象は照井とサトウの強靭なボトム、イマイの緊迫感のあるギターによってより強固になっているように思う。さしずめそれはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTよりもハードで、The Birthdayの朗らかさからは程遠い世界ーー「青空」「オルゴール」「抱きしめたい」「スカイブルー」といった後期The Birthdayの音楽が喚起するものが青空だとすると、イタリア語で「赤」を意味する「ROSSO」と名乗る彼らの音楽は、まるで黒々と燃える太陽のようである。 さて、メンバーチェンジを経てアンサンブルも生成し直された『Dirty Karat』を、「2作目のアルバム」ではなく「新生ROSSOの1作目のアルバム」として捉えるのなら、このバンドは2枚の1stアルバムをリリースし、そしていきなり終点へと辿り着いてしまったことになる。『Emissions』のラストナンバー「発光」を聴けば、きっと誰もが冒頭にある寂れた歌唱に驚かされるだろう。くわを持ったチバが雪山を彷徨うMVにもただならぬ空気感があり、ガレージロックとポストロックをROSSO流に掛け合わせたような長尺のサウンドと相まって、最後までこのバンドの混沌とした音楽性を植えつけてくる。活動期間の短さもあり未完成のままに終わった印象が強いが、しかしそれ故にここには得体の知れない魅力が今でも息づいているように思うのだ。 ROSSOはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT解散後に初めてチバが所属したバンドであり、ここで活動を共にしたイマイとは、後にThe Birthday、Midnight Bankrobbers、THE GOLDEN WET FINGERS、そしてソロ作品にもギターで参加してもらうなど、そのキャリアの多くを共有することになっていく。短い活動期間ながらも、彼のキャリアにおいて重要な結節点だったと見ることができるだろう。1曲勧めるなら「1000のタンバリン」だが、全くの未聴だという方は、存外ライブ盤の『ダイヤモンドダストが降った夜』もいいですよ。 ※1:チバユウスケ(The Birthday)『EVE OF DESTRUCTION』より
黒田隆太朗