「もう１つの合併」「巨人パ移籍？」激動の球界再編から20年…何が正義だったのか／寺尾で候
＜寺尾で候＞ 日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 【写真】拡声器をつかい、サインできなかったファンにわびる松中信彦 ◇ ◇ ◇ 04年9月19日は、プロ野球史上初のストライキが2日目に入った日だった。記者のメモによると、夜討ち朝駆け続きで疲労もピークに達したか、大阪・堂島のサウナに駆け込んでいる。 プロ野球選手会は近鉄・オリックスの合併凍結を求めたが、経営者側と合意をみることはなかった。18日からの2日間で、選手会は各地でイベントを開催し、ファンに理解を求めた。 本体の経営悪化で、球団消滅の危機にあったダイエーの本拠地、福岡ドームで行われたサイン会に、約2万人のファンが集まったのは驚きだった。 「ファン裏切る“億万長者”のスト」「責任はNPBの怠慢にある」「球界最大の危機」「仲介役が不在 人気急落も」。そんな厳しいコラムが各紙に掲載された。 都内でNPB選手関係委員会委員長だった瀬戸山隆三（ロッテ球団代表）と向き合った。当時はファンから球団事務所、自宅に脅迫状が届いたから気の毒だった。 「ひとつのケジメとして、あそこ（ストライキ）までいかないと、事は収まらなかったと思います。経営者側も腹をくくった。でもあれだけファンからの声が湧き上がって、こちらは少なからずうろたえたかもしれませんね」 平行線をたどった末にストライキが決行され、本紙はさらに踏み込んだコラムを執筆した。 「『パ4構想』ある限り『来季』はない」 西武オーナーの堤義明が、近鉄・オリックスの球団合併に加えて、「もう1つの合併」の進行を明かしていた。つまり「セ6、パ4」にして「1リーグ」をたくらんだのだ。 しかし、水面下でうごめいた「ダイエー、ロッテ」の合併は行き詰まった。ロッテ球団社長の浜本英輔と瀬戸山が、西武ライオンズの親会社だった国土計画に足を運んでいる。 元国税庁長官の肩書をもった浜本だから、球界再編を仕組んだオーナーたちにも顔が利いたはずだ。瀬戸山と2人は、その場で、西武グループ総帥の堤からの要望を伝えられる。 それが「西武、ロッテ」の合併だった。ダイエーがあくまでも再生機構を使わない自力再建に固執し続けたことで、球団の落ち着き先も決まらない状況だった。 それまで“ダイエー待ち”だった堤だが、新たな合併案として「西武、ロッテ」が密室ではかられたのだった。だが逆にロッテオーナーの重光武雄はこれに同意しなかった。 つまり「もう1つの合併」は完全に崩壊した。そして、孫正義が率いた通信大手のソフトバンクが、“格安”でダイエー買収に成功するのだった。 9月に決行されたストライキの前に、前巨人オーナーで、読売グループ会長の渡辺恒雄が、毎日新聞で1面トップ、25面全面を割いたインタビューに「セ6、パ4」になった際を想定した問いに、衝撃的な発言をしていた。 「セ・リーグからどっかの球団がパ・リーグの方に行ってもらうことになる。どこも行かんということになればね、言いだしっぺだから、巨人がパ・リーグ移籍ということもあるでしょう。それは仮定の結論だけどね」 しかし、どれも、これもシナリオ通りには運ばなかったのだ。あれから20年が経過した今も、激動の球界再編は何が正義だったのか、いまだ“答え”を見いだせていない。（敬称略、肩書は当時）【寺尾博和】
