【遠藤航・分析コラム】なぜ狙われるのか? リバプールのビルドアップに苦戦、サッカー日本代表MFに足りない選択肢
UEFAヨーロッパリーグ(EL)・グループリーグE第6節、サン=ジロワーズ対リバプールが現地時間14日に行われ、ホームチームが3-1の大勝を収めた。遠藤航は、先週末のクリスタル・パレス戦のように対策をされて思うようにビルドアップができなかった。彼は一体どのような問題をかかえているのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】サン=ジロワーズ対リバプール ハイライト
●リバプールの遠藤航は前半のみで交代に 第5節でUEFAヨーロッパリーグ(EL)グループEを首位で通過することが決定していたリバプールは、ユニオン・サン=ジロワーズ戦で大幅なターンオーバーを敢行した。 スタメンの平均年齢は同クラブの欧州カップ戦史上最年少となる22.5歳で、若手選手にチャンスを与える試合となった。 すでに消化試合のリバプールに対して、サン=ジロワーズは勝利すればグループステージ突破の可能性がある大一番だった。このモチベーションやメンバーの差もあって、ホームチームが3-1の快勝を収めた。 この若手主体のゲームで遠藤航は[4-3-3]のアンカーで出場。しかし、先週末のクリスタル・パレス戦に続いて、前半のみでベンチに下がっている。 前半のみの出場となった遠藤とイブラヒマ・コナテについて、ユルゲン・クロップ監督は試合後のインタビューで「インテンシティを共有したかっただけだ。ジョー・ゴメスとイブライマ(・コナテ)のどちらも90分起用するつもりはなく、45分ずつに決めた。それは中盤も同じ。これらの変更は試合前に計画したもので、結果とは関係ない」とコメント。あくまでも遠藤の45分間のみの起用は試合前から決めていたことだったと明かした。 しかし、彼個人のパフォーマンスにフォーカスすると、事前の計画がなかったとしても、前半のみで代えられてもおかしくない出来だった。 ●定石になりつつある“対遠藤航“対策 この試合で遠藤は攻守両面でかなり苦しく、彼の持ち味が発揮されるような場面はほとんどなかった。 若手主体による連係不足や判断ミス、消化試合だったことによるモチベーションの低下などが影響したこともパフォーマンスレベルの低下に繋がった可能性があるが、それを差し置いても彼のパフォーマンスには厳しいものがあった。 サン=ジロワーズの選手は先週末のクリスタル・パレス戦を研究していたようにも見え、遠藤にボールが入った瞬間に猛烈なプレスを仕掛けた。 27分の場面では敵陣で遠藤にパスが渡ると、右へのパスコースを切りながらカメロン・プエルタスが一気に距離を詰めた。この時に日本代表MFはすぐにボールを捌くのではなく、キープを選択。その結果、強引にボールを刈り取られ、カウンターのピンチを招いてしまった。 相手選手からボールを隠せる選手やフェイントなどの個人技でプレッシャーを剥がせる選手であれば一度キープしてからでもプレーの選択肢はあるが、遠藤は上記のどちらにも当てはまらない。そのためダイレクトやワンタッチで味方選手にボールを預けることがベストな選択肢になりそうだが、この場面では判断が遅れてできなかった。 このような現象が起きていたのは遠藤だけに限らない。カーティス・ジョーンズも43分に喫した2失点目の直前に不用意な判断ミスからボールをロストしている。 なぜ、中盤の選手のボールロストが目立つ展開になったのだろうか。 ●遠藤航がリバプールのビルドアップに向いていない理由 今に始まったことではないが、リバプールのビルドアップはかなり個人技に依存をしている。 選手の立ち位置やルールが決まっているわけではないため、その場面に応じたアドリブが求められている。特に中盤は360度の視野が求められるポジションであり、瞬間的な状況判断が欠かせない。 この状況判断を助けるのが、プレーの選択肢の多さだ。クロップ監督の中での序列が高いアレクシス・マック・アリスターやドミニク・ソボスライ、ライアン・フラーフェンベルフは、ボールを受けた時の選択肢がパスやキープ、ドリブルでの持ち運びなど、いくつか武器がある。そのため立ち位置が整理されていないリバプールの中盤でもなんとかビルドアップできている。 一方の遠藤は彼らと比較をするとボールを持った際の選択肢が少なく、先述したボールロストの仕方からもわかるように、基本的にはパスしか彼の中でのプレー選択はない。仮にビルドアップが整理されているチームであれば、味方選手の決まったサポートの仕方などがルールとして浸透しているが、リバプールの場合はこれがない。 立ち位置が整理されていないことから場面ごとに味方選手の立ち位置が異なる。そのため遠藤は彼らのポジションを把握するために顔を上げてチームメイトを探す必要が生まれ、現状では、その数秒間の間に相手に距離を詰められている。 この「パスコースを塞ぎながらプレスを仕掛ける」という対策に対する遠藤の策は、相手と味方の立ち位置を常に確認して判断能力を高め、そこへのダイレクトやワンタッチパスで捌くしかないだろう。これができるようになれば、チームメイトが遠藤にプレスを仕掛けた選手が空けたスペースを上手く活用することができるかもしれない。 週末のマンチェスター・ユナイテッド戦はマック・アリスターが戦列に戻れるかどうかわからないため、遠藤に再び先発出場のチャンスが訪れる可能性がある。恐らくエリック・テン・ハフ監督のチームも日本人MFに対する対策を練ってくるだろうが、それまでに遠藤はもちろん、チ-ムとして準備を練ることができるだろうか。 引き続き整理されることがなければ、クリスタル・パレス戦やサン=ジロワーズ戦のように苦戦を強いられるかもしれない。 (文:安洋一郎) 【了】
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