【相撲編集部が選ぶ九州場所2日目の一番】右ヒザの大ケガから奇跡の復活。友風が4年2カ月ぶりの幕内白星挙げる
特技はピアノ。これからも一歩ずつ、土俵で復活のメロディーを奏でてゆく
友風(押し出し)宝富士 「お帰りなさい」 土俵から引き揚げる花道の奥で、待ち構えていた中村親方(元関脇嘉風)に、そう声をかけられたという。 返り入幕の友風が、令和元年9月場所千秋楽以来、4年2カ月ぶりの幕内での白星をつかんだ。 この日は宝富士との対戦。「何度か対戦したこともありますし、左を差されたらどれぐらい強いか、その脅威は体が覚えていたので、徹底しました」と、相手の得意な左差しを徹頭徹尾嫌って、攻め続けた。頭で当たって突き放し、先手を取ると、左のノド輪で距離を取りながらさらに攻め込む。そのあとも左差しを許さないように右からの押しを効かせてそのまま押し出した。 【相撲編集部が選ぶ九州場所2日目日の一番】御嶽海、逸ノ城を押し出し、大関復帰へ連勝 「うれしいです。いい相撲が取れたと思います」と友風。ひと口に「4年2カ月ぶりの白星」と言うが、その4年間には、想像を絶するものがあったはずだ。令和元年、この九州場所での2日目、琴勇輝(現荒磯親方)戦で土俵下に転落した際、右ヒザに重傷を負った。ヒザから下は、皮膚と内側の靭帯、そして血管1本だけでつながっているような状態だったともいい、相撲どうこうではなく、「まず歩けるようになることを考えましょう」と言われるほどのケガだったという。 そこから治療とリハビリを重ね、相撲を取れるようになり、土俵へと帰ってきた。「(支えは)周りの人の気持ち。本当に感謝しかないです」。かつては付け人として付いていた兄弟子であり、今は部屋付きの親方でもある中村親方(元関脇嘉風)ら多くの人に支えられ、気持ちを保ってきた。そして一時は序二段55枚目まで下がった番付も2年半かけて挽回、幕内の土俵に立った。 「きのうは頭が真っ白だったんですが、帰ってから(映像を)見返してみたら、友風の名前がたくさん見えて、こみ上げるものがありました。ずっとぬぐえないものと戦っていくことになるので、それをしっかりと受け入れて、自分の相撲を取りたいと思います」 今でも、右足は自由自在に動くわけではなく、相撲を取れて、さらに幕内に帰り、相手に伍していくことができているのは、本当に奇跡のようなことであるはずだ。ここに至るまでの精神力、そして重ねた努力がいかばかりかは、周囲には想像することすらできないが、土俵で奮闘するその姿が、見る者に大きな勇気を与えてくれることは間違いがない。 「きょうはきのうの反省を生かすことができました。幕内の土俵でいい相撲を取れたということが、しっかり切り替えられたということだと思います」 4年ぶりの幕内白星という大きな足跡をしるしたが、これはもちろん最終到達点ではなく、復活への一里塚だ。特技はピアノ。これからも一歩ずつ、土俵で復活のメロディーを奏でてゆく。 文=藤本泰祐
相撲編集部