結婚して継いだ老舗旅館は、負債10億だった… 4代目女将、エンジニアを雇ってV字回復できた理由とは
◆最初に雇ったのがエンジニアだった理由
余剰人員と、アナログな業務管理の仕組みの改革に着手した宮﨑氏は、独自にクラウド型旅館ホテル管理システム「陣屋コネクト」を開発します。 そして、経営をわずか数年で再建し、利益率を大幅に改善しました。 陣屋コネクトの特徴は、予約の受付から顧客情報、料理の内容に至るまで様々なサービスを一元管理できることです。 宿泊客の到着は全スタッフが共有し、情報はタブレット端末やインカムの音声を通じてリアルタイムで伝えられます。 スタッフの勤怠管理や日常的な報告、在庫管理、さらには経営分析まで可能なシステムでした。
◆宿泊代以外の大きな売り上げの柱に
――いわゆるERP、経営や業務管理のシステムを外注せず、独自に旅館バージョンを作ったということですか。 はい、自社で開発しました。 現在はライセンス販売をしており、全国450施設で利用してもらっています。 ――陣屋コネクト開発後、業績はどうなりましたか。 2009年の売上が2億9000万円くらいで、2014年ぐらいからグーッと伸びました。 その主軸になっているのが実は「陣屋コネクト」で、売り上げの半分近くが「陣屋コネクト」です。 事業承継した直後、全部が手書きの台帳でした。 この台帳をデジタル化していきたい、というのはすぐに感じました。 顧客管理や食材仕入れ、原価管理、こうした必要な情報を、ちゃんと数値化して管理していかなければいけない。 食材ロスを減らしたいというのもありました。 2009年10月に陣屋に入り、その2カ月後にはエンジニアを採用し、そこからセールスフォースの導入を決めました。 ――わずかな期間で導入を決定したのはなぜですか? 今はクラウドという言葉は当たり前ですけど、当時はクラウド自体、一般にはほとんど知られていませんでした。 私も最初は何だろうと思いました。ネット上で全部、サーバーを持たないでできるということで、じゃあそれだねって。 実際に導入したのは2010年の4月で、すぐに社内で使い始めました。 2012年には、会社を設立し、外販も始めました。 すぐに成果が目に見えるように出始め、2年半で赤字が解消しています。 外販に取り組んだのは、社内で改善要望があまり上がりにくくなっていたという事情もありました。 「外販をして厳しい意見をたくさんもらい、もっと仕組みを進化させたい」と思ったのです。
■プロフィール
株式会社 陣屋 代表取締役 女将 宮﨑 知子 氏 1977年、東京生まれ。2000年、昭和女子大学文学部卒業。卒業後、メーカー系リース会社にて営業職に7年間従事。結婚を機に退職し、サービス業未経験のまま2009年より夫の実家である老舗旅館「陣屋」の女将に就任。夫の実家が営む老舗旅館「元湯陣屋」の経営再建を図る。2010年にはクラウド型旅館・ホテル管理システム「陣屋コネクト」を独自開発し、2012年に黒字化を達成。ICTを活用したデータ分析とおもてなし向上を実現し、業績をV字回復させたことで注目を浴びる。2017年に代表取締役女将に就任。2児の母でもある。