【西武投手王国への道】身体の理解度を深め質の高い球を投げる 今季最も成長の跡を示した渡邉勇太朗
パ・リーグを戦う西武の最大のストロングポイントである投手陣。近年、急速に力をつけてきたが、その裏には一体、何が隠されているのか。ライオンズ投手王国への道を追う――。 取材・文=中島大輔 写真=湯浅芳昭 【選手データ】渡邉勇太朗 プロフィール・通算成績・試合速報
安定感ある投球に指揮官も高い評価
右足の腓骨骨折で登録抹消――。 9月11日、西武の若手右腕・渡邉勇太朗に関して残念なニュースが飛び込んできた。8月29日のロッテ戦(ZOZOマリン)で右足首に球が直撃し、続く登板となった9月6日のソフトバンク戦(みずほPayPay)で悪化したというのだ。ケガの状況と残り試合を考えると、渡邉の今季はこれで終了となるだろう。 14試合に登板して3勝4敗、防御率2.67を記録したが、数字だけを見ると特に活躍が浮かび上がるわけではない。 だが、歴史的な低迷を見せた今季の西武で、最も成長の跡を示した一人が高卒6年目の渡邉だった。 6度目の登板で今季初勝利を飾った日本ハム戦(ベルーナ)後、渡辺久信GM兼監督代行はこう称えた。 「安定感が出てきました。去年までは3イニング目くらいになると真っすぐが急に落ちていたけど、今年は5、6回くらいまでまず行ける。体力もつき、ピンチでもマウンド上でオタオタしなくなりました」 渡邉自身、この試合後に心境の変化を明かしている。 「毎回、『自分は先発ローテーション』と自信を持って臨んでいます。今年になり『自分がチームを勝たせる』という気持ちが不意に芽生えてきました。そこから自分の投球が良くなった感覚もあります」 5年前の2019年、渡邉はドラフト2位で浦和学院高から入団した。191cmの右腕は将来の先発候補と期待され、渡辺GMの「ナベQ」にかけて「ナベU」の愛称がつけられた。同時期にフリーエージェント宣言して巨人に移籍した炭谷銀仁朗の補償選手でやって来た内海哲也(現巨人投手コーチ)にかわいがられたこともあり、ファンの期待は特に高い一人だった。 高卒3年目の21年後半から先発ローテーションで起用されると4勝をマーク。最速153キロと高い潜在能力を発揮したが、以降は期待に応えることができなかった。 「ここ2年はダメだったので、今年こそという気持ちでやっています。活躍しないと稼げないですし、しっかり仕事を続けていく上で、一軍で結果を残すことは必須条件なので」 入団6年目の今季、渡邉には明らかに変わった点が二つある。まずは体重だ。ウエート・トレーニングを重視する高橋光成や平良海馬らと自主トレを一緒に行い約6kg増やした。 公式発表で191cm、95kg。あどけない表情の渡邉だが、隣に立つと巨漢ぶりはプロ野球選手の中でも際立っている。 じつは、オフに6kg増やした体重は今季一軍初昇格した5月中旬には4kg落としていたという。 「疲れがたまってきた中で疲労が抜けづらいなと感じました。若干余分な重さもあったので。筋肉量を極端に減らしたわけではなく、走ったり食事で余分な体脂肪を絞りました」 高橋や平良、さらに自主トレを一緒に行ったトレーナーなどの影響もあり、身体について勉強し理解を深めた。それが今季、登板した半分の試合でクオリティスタートを達成した安定感につながっていると言う。 「疲労が抜けないときは調整法を変えるとか、体のここが動きにくいから治療してもらうとか、出力が出ていないからこういうトレーニングを入れようとか。自分のことをしっかり理解できるようになりました。体をいい状態に持っていけているので、いいボールを投げられているのかなと思います」