【夏休み特選】時間を無駄にしない! 絶対面白いサスペンス映画10選!
凄腕諜報員たちの頭脳戦にシビれる!『裏切りのサーカス』
英国情報部の幹部メンバーの中に「もぐら(二重スパイ)」がいる。東西冷戦下でその人物は、英国のために身を捧げているように見せかけながら、ソ連側に情報を漏らしているというのだ。ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマン……秘密裏にそう名付けられた面々をターゲットに、いま初老スパイ、ジョージ・スマイリー指揮下の炙り出し作戦が幕を開ける。 いやはや、これは数あるスパイ映画の中でも最高級の味わい。銃撃戦や格闘などが全く起こらない中で、一筋縄ではいかない諜報員たちの血の涙もない頭脳戦が繰り広げられ、その向こう側にはいつもうっすら、自分たちを写す鏡のごとく組織化されたKGBの気配が見え隠れする。70年代BBCドラマでは『スター・ウォーズ』オビ=ワン役、アレック・ギネスが名演を見せたが、これとはやや印象を異にする新たなゲイリー・オールドマンの存在感がまた絶品。わずかな仕草、声のトーン、眉や広角の動きにすら気が抜けない。ちなみにクリスマス・パーティ場面で原作者ジョン・ル・カレもちらりと映るので、お見逃しなきよう。
複雑化した諜報戦の内幕を描く!『誰よりも狙われた男』
ジョン・ル・カレ原作による激渋なスパイ映画。かつて9.11テロの実行犯らが拠点にしていたとも言われるハンブルグを舞台に、諜報組織内のライバル同士やCIAらが繰り広げる”新時代の勢力争い”をジリジリと焼け焦げるような筆致で描く。起点となるのは、この地にふらりと流れ着いたイスラム系チェチェン人の若者。どうやら彼は莫大な遺産を相続しているらしく、彼を泳がせて資金の流れを辿れば隠れたテロ計画を炙り出せるかも……そう画策するベテラン諜報員バッハマンだったが、事態は思いもよらない力学によって内側からことごとく崩れ落ちていく。 名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最晩年作品としても名高く、タバコをくゆらせ、相手を出し抜き、焦燥に駆られ、笑顔を浮かべつつ刃のような言葉を突きつける姿が、まさにリアルなスパイとしての凄みを漂わせる。悪者は一人も登場しない。誰もがより良い世界を望んでいる。なのに周囲の誰一人として信用できず孤独は増すばかり。暗闇の中、おぼろげな出口を求めてさまよう、玄人好みの一作である。