年越しカウントダウン中止の渋谷区、頭悩ます“路上喫煙”は外国人観光客より日本人が問題?「苦情が減った」喫煙所整備における草の根活動
■「吸わない方からの苦情も格段に減った」、喫煙所整備と助成金で変化
このように、人が集まる、集まりすぎるからこそ喫煙対策の難しい渋谷区。ルールを守らせることが難しいのであれば、区外から来た日本人にも外国人にもわかりやすいように、喫煙所を増やせば解決への近道になるのではなかろうか。 一時期は、受動喫煙を防ぐために喫煙所を撤去する自治体も多かった。だがフタを開けてみれば、かえって路上喫煙やポイ捨てが増える結果となり、近年ではゾーニングを徹底して吸わない人を守る形にシフトチェンジしつつある。「そのへんで吸うくらいなら喫煙所に“隔離”してくれ」「自分が迷惑をこうむらなければそれでいい」と言う非喫煙者も増えた。 渋谷区もこの流れは実感しており、喫煙所整備にも注力している。 「最近、スクランブル交差点の喫煙所を外に煙が流れない仕様に変えました。もともとここは非常に狭く、外にはみ出して吸う人が後をたたなくて。車道側に囲いもなく危険だったので、改修を機にスペースも広げました。これによって喫煙所の外で吸う人は減り、吸わない方からの苦情も格段に減っています」 また渋谷区では、区の指定喫煙所だけではなく、民間に向けて喫煙所設置・維持の助成金も交付している。設置費については昨年度までの上限300万円から今年は上限900万円に大幅増額と、他の自治体と比べてもかなりの大盤振る舞いだ。 実際、この助成金を民間が活用し、かつて吸い殻の多かったクランクストリート(渋谷センター街の脇道)に加熱式たばこ専用の喫煙所が設置された。ここは以前、民間企業が期間限定で“投票型喫煙所”を設置して注目を集めた場所。形は変われど、助成金を活用した常設の喫煙所ができて喫煙者がルールを守れるようになったのであれば、望ましい流れと言える。 ■渋谷区ならではの“壁”も? 32億円のたばこ税を活用し「吸う人も吸わない人も共存できるまちづくりを」 豊かな助成金、区と民間の協力があれば喫煙所問題も解決…と思いきや、話はそう簡単ではない。そこには、渋谷ならではの大きな壁が立ちはだかっていた。 「渋谷区は地価が高い上に、特に渋谷駅周辺はとにかく空きスペースがないのが悩みどころです。区からも各所に喫煙所設置のお願いに回っているのですが、断られることも多く──。今は既存の喫煙所のスペックを向上しつつ、しっかりと維持に努めていくしかないというのが現状です」 たしかに、渋谷駅周辺は隙間なくビルが立ち並び、店舗の面積も狭い。港区などは助成金がコンビニ喫煙所の増加に繋がったというが、渋谷駅周辺はコンビニすら狭く、喫煙所を設置するスペースはないだろう。訪れる人の数に対して、駅周辺の喫煙所の数は決して十分とは言えず、それがルール違反をも誘発しやすくなる。だが、今さら場所を確保するのも難しいという難題だ。 しかし、かすかな希望もあると吉澤さんは見ている。それが、現在行われている100年に一度の再開発だ。 「渋谷駅周辺に建設されている大規模商業施設には、渋谷区の条例により喫煙スペースの設置が義務付けられています。今はまだ過渡期ですが、いずれどの改札からもアクセスのいい場所に喫煙所が設置されるというわけです。こうした施設内の喫煙所にプラスして、今ある喫煙所をしっかり維持していければ、問題も緩和されるのではないでしょうか」 東京でも有数の繁華街という場所がら、渋谷区が抱える喫煙課題が多くなってしまうのは致しかたない。それでも区は、解決の道を模索してトライを繰り返している。見送られる「年越しカウントダウン」の時期も、区の職員による喫煙マナー啓発の巡回は行うそうだ。場所がなければ人力で…とは、まさに草の根活動。訪れる喫煙者にも、ぜひこうした苦労を知ってほしいものだ。 「渋谷区の32億円のたばこ税を、吸う人も吸わない人も共存できるまちづくりに最大限活用したい」と職員は口を揃える。喫煙者はもちろん非喫煙者にとっても、身近なだけに適正化が求められるこれらの対策。世界中から人が集まる渋谷区が、これからどう変化していくのか注目したい。 (文:児玉澄子)