<第94回選抜高校野球>センバツ21世紀枠 候補校紹介/4 相可(東海・三重) 地元特産、継承に一役
◇相可(おうか)(東海・三重) 対峙(たいじ)したのは人間ではなかった。2021年12月末。つなぎと長靴をまとった野球部員たちは、大きな牛を縄でバーにつなぎ、金属製のブラシで毛並みを整えた。選手の7倍以上の大きさだが、慣れた手つきで誘導し、体重を量ると、エース右腕の山口椋太郎(2年)は笑顔を見せた。「この前より10キロほど増えてます」。目の前にブランド牛の「松阪牛」がいた。 相可は4学科あり、山口ら10人の部員が所属する生産経済科は、地域農業の発展を担う人材を育成している。園芸や果樹など農業を幅広く学べるが、中でも目立つのが、地元の三重県多気町の特産品である松阪牛の肥育だ。 兵庫県但馬地域で生まれた雌の子牛を生徒が吟味して買いつけ、学校の牛舎で2年半飼育する。育った牛は、毎年11月末に行われる松阪牛最大の催し「松阪肉牛共進会」の品評会に出品し、出荷する。肥育農家の仕事を一通り経験できる実習で、山口は「地元の誇りを学び、(後世に)つなぎたいと思ってこの学科を選んだ」。育てた牛が多気町のふるさと納税の返礼品に採用されたこともあり、特産物の継承に一役買っている。 野球部員は生産経済科、環境創造科、普通科のいずれかに所属するが、それぞれ補習や専門的な実習があるため、平日の練習に選手全員がそろうことは少ない。グラウンドは陸上部やサッカー部と共用で、シートノックの機会も限られる。 困難な環境を打破しようと、逵(つじ)兼一郎監督(48)が最も力を入れるのが「細かすぎる疑似的な実戦練習」だ。投手であれば「2死二塁の一ゴロでベースカバーに入ったが、一塁がセーフになった場合の守備」など、場面を細かく設定。同じ動きを何度も繰り返し、体にたたき込む。「少人数でも、場所がなくても言い訳はしたくない。選手たちの自主性にかかっている部分もあったが、実際、秋の試合で驚くほどの成長を見せてくれた」と逵監督。昨秋は県大会でベスト8に進出した。 野球と両立させながら、地域活性化に欠かせない存在となった相可の生徒たち。春の切符をつかみ、地元を喜ばせたい。【森野俊、写真も】=つづく ……………………………………………………………………………………………………… ◇相可 1907年創立の県立校。普通科、生産経済科、環境創造科、食物調理科の4学科がある。難関国家資格「測量士」の取得を将来的に目指す環境創造科では、2年生部員の6人全員が「測量士補」の試験に合格した。食物調理科の研修の場として開設した高校生レストラン「まごの店」はテレビドラマのモデルになった。野球部は48年創部で、夏の甲子園に63、79、83年の3回出場。