マリナーズ岩隈が勝てる理由は心理戦
「たまたまっす。成績はたまたまっすよ」。 9月5日のレンジャーズ戦で14勝をマークし、サイ・ヤング賞候補でもあるマリナーズの岩隈久志に、好調の要因を問うと、そう言って笑った。「たまたま以外に何もない。まぐれっすよ」 いやいや。 ・2012年7月に先発に転向してから、今年8月31日まで、2年2ヶ月の防御率2.74はリーグトップ ・今季、9イニングあたりの四球の数は、0.75でリーグトップタイ ・K/BB(奪三振と与四球の比率)が9.77でア・リーグ2位。(K/BBは、制球力の良さを示す一つの指標で、5.00を超えれば 優秀などと言われるが、岩隈はその基準値の2倍近い数字をたたき出している) ・WHIP(1回あたりに何人の走者を出したかを表す数値)が、0.97でリーグ3位。 ・LOB%(残塁率)は、79.7%でリーグ3位。 ※9月2日現在 すべて、ア・リーグ先発投手が対象 挙げようと思えば、まだいくらでもあるけれど、『たまたま』や『まぐれ』では、こんな数字は出ない。岩隈は先発に転向してからの防御率がア・リーグでトップであることを知らなかった。 「そうなんすか。へぇ~」。 まるで人ごとである。なんかあるでしょう? 岩隈にもう一度聞くと、「そうですねぇ~」と言ったあと、「まあ、バッターは凄いですけど、技術の凄い打者も多いですけど、振ってくれるんですよね」と話し始めた。 ーー振ってくれる? 「そう。日本みたいに、見て、ファールしてとか、当ててくる感じではない。振ってくる。ホームラン出るか、出ないか、みたいな。そんなバッターばかりではないですけど、そういうバッターが多い」 ーーそういう打者の方が、与(くみ)し易い? 「その方が、僕は投げやすいですね。振るだろうというタイミング、カウントとかを考えて、そこでこのボールを投げたら振ってくれるんじゃないのか、というのがあるから」 ーーとなると? 「それをそこへ投げられるかどうかじゃないですか」 それが岩隈のピッチングの真髄。単にストライクが投げられるから、岩隈が凄いわけではない。この球をこのコースへ投げたら打ち取れる、というイメージを持ったとき、その通りの球を投げられるかどうか。そもそもそれが、制球力の定義だろう。