池上彰×佐藤優が語る「トランプ大統領就任後の中東」 いま核使用の可能性が最も高い国は
ドナルド・トランプ氏の大統領再任は、中東情勢にどのような影響を及ぼすのか。池上彰氏と佐藤優氏が解説する。AERA 2024年11月25日号からテーマごとに抜粋してお届けする。 【写真】中東情勢について語る池上彰さん * * * 【中東問題】 池上彰:非常に注目されるのは、アメリカのアラブ系あるいはパレスチナ系の動きです。彼らは、これまでは民主党を支持してきたけど、イスラエルがガザやヒズボラを攻撃していることに対して、バイデン政権は口では非難するけれども莫大(ばくだい)な軍事援助は続けている。結局、民主党政権には期待できない、それよりは、トランプ氏はイスラエルにべったりだけど、何かやってくれるんじゃないか、あるいは戦争を終わらせてくれるんじゃないかという期待から、アラブ系やパレスチナ系の人たちがトランプ氏を支持しています。常識的に考えるとありえない選択ですが、やはりトランプ氏の実行力に期待をしているということだろうと思います。特にトランプ氏が、イスラエルのネタニヤフ首相に「俺が大統領になるまでにガザの戦争を終えろ」なんて言っています。結果的に、トランプ氏という劇薬を使うことによって、ガザの戦闘を止めることができるんじゃないかという期待を持たせたわけです。 佐藤優:まだ就任前なのでトランプ政権にはなっていませんが、すでにアメリカの外交当局は、トランプ氏の側に立っている。先日は、アメリカがカタールに対し、首都ドーハにあるハマスの活動拠点を追い出すよう求めた、と報道されました。「ハマスを追い出す=交渉窓口をあえてなくす」っていうことです。アメリカは外交解決をするつもりがないという意味です。イスラエルがハマスの戦闘員がいなくなるまで戦い、パレスチナ側の死者が10万人になることをアメリカも容認しているように見えます。 西側は、人権の声を上げることによって、イスラエルを包囲して、何らかの形での和平を実現することを目指しています。ICC(国際刑事裁判所)から逮捕状まで出て、ICJ(国際司法裁判所)からはジェノサイド防止を命じられるようになった。そうして、アメリカ国民の半分は「イスラエルがやりすぎだ」と言うようになった。すると、イスラエル側は「力による解決しかないでしょ」と、逆側に振れてしまったんです。私がずっと言っていたのは、イスラエルを力で追い込んで人権圧力をかけても言うことを聞くはずないんだ、と。わかりやすく言うと、イスラエルはバックにアメリカがいるけれども「中東の北朝鮮」なのだということです。イスラエルの言うことに耳を傾ける形で、外交解決の可能性があるんだってことを示さないと暴走するぞ、と。いま核兵器を使用する可能性が最も高いのは、イスラエルです。 (構成/編集部・三島恵美子) ※AERA 2024年11月25日号より抜粋
三島恵美子