本郷和人『光る君へ』では帝まで夢中の『源氏物語』。しかし武士や富国強兵の時代にどんな扱いをされていたかというと…
◆紫式部本人の手による『源氏物語』原本は存在しない ただし、藤原道長が書き記した日記『御堂関白記』には原本が残っていますが、『源氏物語』は、紫式部の手による原本が残っていません。 現存する『源氏物語』の本文は通常、ルーツによって2種類+アルファに分類されます。 具体的には(1)青表紙本系統(2)河内本系統(とアルファとして別本系統)です。 (1)の青表紙本は、鎌倉時代を生きた歌人、藤原定家によって作成された本です。 一方で(2)の河内本は、(1)とほぼ同時期に河内守源光行・親行父子によって作成された本です。なおアルファとなる別本群はそのいずれにも属さない本を指します。 私たちが読んでいる『源氏物語』は(1)になります。 といっても、青表紙本と河内本は、いずれも全54巻という形態で、巻順も同じ。専門家でなければ、差異に気づくことはまずありません。 そして(2)の作成者である源光行。彼を知る人も、たぶん専門家に限られます。 彼は清和源氏で河内守に任じられた人でした。では武士なのかというと、自ら弓矢を取って戦場の最前線に出る「武者」では、おそらくない。鎌倉幕府にも仕えているのですが、大江広元タイプの文官でした。 但し政所の別当という高い地位にありましたので、多くの荒くれ武者を配下として従えていたと推測できます。 彼は息子の親行とともに、当時バラバラになっていた『源氏物語』の写本を集め、研究して原典の復元に努め、河内本をまとめあげたのです。
◆権威を持った“青表紙本” (1)の藤原定家は、あまりにも有名な天才歌人です。 定家も『源氏物語』のすばらしさに注目し、原本の復元に努めました。 和歌の世界において彼の作品と名は神格化されていきますので、室町時代ごろより、彼がまとめた青表紙本が「源氏物語」の「正しい」本文であると認識されるようになっていきます。 たとえば室町時代後期の公家(極官は内大臣、また文化人・大学者)だった三条西実隆は、『弄花抄』のなかで、河内本よりも青表紙本の方が文学的に優れていると説きました。 そのため青表紙本は、その他の伝本を凌駕する権威をもったのです。
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