38歳でヱビスブランドの醸造責任者に抜擢、YBTからのインスパイアビール第1弾「燻」9月10日発売/サッポロビール有友亮太氏インタビュー
サッポロビールは2023年からヱビスブランドの新ライン「CREATIVE BREW」を立ち上げた。「つくろう、驚きを、何度でも。」を合言葉に掲げ、ヱビスで100年以上培ってきた技術と知見を活かしながら、これまでのビールの概念にとらわれない新たなビールのおいしさや楽しさに挑戦している。その商品開発を担うのが若手ブリューマスターの有友亮太氏だ。若手醸造家ならではの感性や現代の製法や技術を取り入れ、独創的な商品を提案している。 2023年2月に第1弾「ヱビス ニューオリジン」、同年9月「同 オランジェ」、24年2月「同 シトラスブラン」、4月「同 ジューシーエール」と次々に展開した。そして、この9月10日に登場する第5弾が「同 クリエイティブブリュー 燻(いぶし)」だ。 同社が4月に開業したヱビスブランドの体験拠点「YEBISU BREWERY TOKYO」(恵比寿本社の地下1階、以下、YBT)で連日売り切れになるほど好評だった数量限定ビール「煙々」の知見を活かし、秋冬向けにブラッシュアップした。ブナ材で燻した麦芽を一部採用し、ほのかにスモーキーで香ばしい味わいが特長だ。
YBTは、開業後3カ月を待たずに来場者数10万人を突破した。有友氏は、YBTで醸造を担当するチーフ・エクスペリエンス・ブリュワーでもある。「大盛況に感謝だ。ヱビスというブランド、また恵比寿という街の魅力を実感している。また海外の方も大変多い。恵比寿がますます“ビールの街”になっていけば」と語る。醸造責任者として、全てのビールの設計から醸造、ネーミング、コースターのデザインまで手掛けるというからまさに有友氏の世界観を総合的に表した空間だ。 もともとYBTで得た醸造の知見やユーザーの声をもとに、全国で発売する「CREATIVE BREW」の商品開発に活かしていく考えだが、今回の「燻」はその第1弾となる。「煙々は、私自身、燻製の香りはややクセがあるので、受け入れられるかどうか未知数の部分があった。YBTでは直接接客もしているのだが、ちょっと意外なくらい、人気だった。燻製は、例えばキャンプであるとか、あるいは自家製の燻製を作る人もいる。かなり一般的な味わいになっている」「そこからのインスパイアを得て、CREATIVE BREWは季節感を大切にしていることもあり、秋冬にふさわしい深みのある味わいを目指した」(同)。 いわゆる黒ビールはローストした黒麦芽を使用するが、「燻」は麦芽を燻している。液色も黒ビールまでは黒くない。カラメル麦芽を使用することもあり、アンバー寄りの淡い茶色。香りもローストしたコーヒーのような香りではなく、ベーコンなど食品で感じられる燻製の香りに近い。「キャンプなどのアウトドアで、焚火を見ながら飲むシーンを思い浮かべながら造った」という。 「CREATIVE BREW」の開発で有友氏が心がけていることは。「ヱビスの新しい顧客を獲得していくというのがありつつも、第1においしいものでなければならない。ヱビスという、全方面で高級感があり上質な感じというのは決して損なってはならない。ビールとしての完成度というのは大事だ。だから様々なスタイルを提案しても、決して奇を衒ったものではなく、ビールとして違和感がないもの、ビール好きの方が“飲み続けられる”というものを目指している。例えば、オランジェのときも、一般的なコリアンダーはややクセがあるため入れていない。そのほうが完成度が高くなると判断した。第2に、実際にビールを飲まれるシーンやシチュエーションを想像し、どうお客様に飲んで頂けるかを常に念頭に置いている」と話す。 有友氏はビール&RTD事業部に加えて商品・技術イノベーション部という技術系の商品開発も兼務している。開発からマーケティングまで一気通貫でみているので、会議に出たり、静岡工場に行ったり、階下のYBTに顔を出すなど、忙しい毎日だ。 YBTでは月に一度、新しいビールを提案していく予定だ。頭に描く構想は。「中味ばかりだとレパートリーにいずれ限界がくるかもしれないが、テーマとしてSDGsを取り上げたり、一冊の本や、一本の映画からインスパイアされたビールがあっていいかもしれない。ゆっくりと読書に合わせる“ほうじ茶ビール”を開発した経験もある。また、最近も戦前からの技術者の方の手書きのノートが見つかり、それを読んでいると、温故知新というか、新しい知見がある。深さと広さという両面でビールの世界を広げていきたい」と締めくくった。
【有友亮太氏プロフィール】
ありとも・りょうた 38歳。東北大学農学部卒、大学では微生物や発酵に興味を持ってヨーグルトについて研究。2012年サッポロビール入社。北海道工場でビール醸造を担当した後、酒類技術研究所で酵母の研究に取り組む。その後、ドイツへ留学し「ブリューマスター」の資格を取得。帰国後は新商品開発や研究を行う。入社10年目でヱビスブランドの醸造責任者に大抜擢された。
食品産業新聞社
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