錦織圭、西岡良仁、ダニエル太郎らを間近で見てきた高田充・日本男子ナショナルチーム・ヘッドコーチに聞く2024年シーズン【テニス】
グランドスラムと比較したら良いとは言えない環境…それでも特別感のあったパリ五輪
――パリ五輪の監督を務められましたが、選手のオリンピックの想いなど感じたことはありますでしょうか。 「やはり特別感はあります。グランドスラムやツアーのような良い環境ではありません。正直、選手村もいいホテルに泊まって、いいケアを受けて…とか素晴らしいホスピタリティがあるわけでもなく、上手く調整ができるということもオリンピックではありませんでした。いつものチームも帯同できなかったりもします。もちろんコーチは何人か入れますが、例えばアルカラスは前半はコーチがいなかった。カルロス・モヤ(ナダルのコーチ)がスペインチームのコーチとして居ますが、彼も(スペインの)正式役員ではないためレストランに入れなかったりする。そういう条件の中でも出たいと思うオリンピックは特別なものがありますね」 ――このスペシャル感は言葉では説明できないものがありますか? 「他のスポーツの日本人アスリートが目の前に居る特別感がありますし、例えば男子の試合を女子が応援に来る、そして女子の試合も男子が応援したり、みんなで応援し合うというのは、そこでしかありません。仲の良い選手同士だとツアー中でもあるかもしれませんが、チームとなって男女が応援し合うことは良かったですね。今回は錦織圭がシングルス、ダブルスも負けて1勝もしていない中、ミックス(錦織と柴原瑛菜)をみんなが応援する。1回戦の相手は地元フランスペアという完全アウェーで、こちらは小さな集団の日本チームでした。チームも数に限りがあって、なかなかいいサポートができないかもしれませんが、それでも選手たちは出たいと思うし、結果を出したいと思うもの。そしてメダルを狙っていました」 「オリンピック前に(ダニエル)太郎は、スウェーデン・ボースタッドの大会に出場していたところ、試合に負けた選手に声をかけたジョコビッチに呼ばれて4日間の合宿というチャンスをもらって参加してきて、圭(錦織)はヨハンソンコーチがモナコにいるから、そこで調整してからパリ入りしたのですが、世界1位のシナーと練習することができました。シナーは出場ができなかったけれど、(錦織は)オリンピック前にいい調整ができたと聞いています」 「(大坂)なおみは、当時の(ウィム・)フィセッテコーチとともに練習しました。開幕1週間前から毎日練習。他の選手もそうですが、(ATPやWTAの)ポイントや賞金はないけれど出場したいという想いが強く、オリンピアンとして特別なことなんだと感じます」 ――日本代表監督としてご自身はプレッシャーなどありましたか。 「特に監督がすることはないのですが、選手がいい状態で入れるように男子選手といつもやっていて、コミュニケーションも取れている一方で、女子選手とは普段そういう機会もない。なので最初に4月に開催されたビリー・ジーン・キング・カップに行って(大坂)なおみに会ったり、他の選手ともコミュニケーションを取ったりしていました。(女子の)試合もなるべく観に行くようにして、どういう状況かなど会場に常に居るようにしていました。そういう意味ではいいコミュニケーションが取れていたと思います。内島(萌夏選手)が現地入りした際に体調を崩していましたが、選手ではなく私と打ちたいと調整を申し出てきたのは、コミュニケーションが取れていたからだと思います」 ――また4年後(ロサンゼルス五輪)ですね。さて数週間後に迫ったデビスカップのコロンビア戦(有明コロシアム/9月14日~15日)で錦織選手がメンバー入りしたということですがどのように受け止めていますか。 「状態が良ければ起用もね。(全米オープン時点では)チャレンジャーで調整、挑戦しています。今年に入って満足に練習ができないまま試合というのが続いて、結局(試合中に)痛くなってしまったとかがある。ウィンブルドンはいい状態で入ったかと思いましたが、直前に足首を捻ってしまい出場できるかわからなくなった。それでも大会が終わって痛みが続いていた中で、パリに向かう過程でリハビリしてモナコで練習し少しずつ良くなってきた。オリンピックの会場入りしてからはずっとポイント練習ができていました。シングルス、ダブルス、ミックスダブルスの計4試合して怪我無く大会を終われたというのは今年にはなかったこと」 ――カナダ・モントリオールでも世界11位のチチパス戦に勝利したことも印象的でした。 「普通の日程ならもしかするとチャンスはあったかもしれません。いい状態で入れれば、まだ実力はあるんですよ」 ――錦織選手の復帰への情熱はすごいですね。あそこまで怪我に悩まされながらリハビリし挑戦し続ける。 「(度重なる怪我で復帰が遅れ)本当に苦しい、メンタル的にも元気が出ない状態かもしれない。それをずっと坂井忠晴トレーナーが支えて毎日リハビリをしている。そういうのを見ていると、助けになることはないかと。再びいい状態でツアーに出てほしいです」