「死んでもおかしくなかった」大事故から生還 小田和正さんを待っていたファンの言葉がその後を変えた
ファンの心をくすぐる「ご当地紀行」
――ファンの心をくすぐる仕掛けとして、小田さんがコンサートの開催地をめぐり、地元の人たちとふれあうシーンを撮影して会場で流す「ご当地紀行」があります。まさに"素"の小田さんが見られるので、いまやファンが待ち望む定番の演出になっていますが、ああいうことをやろうという境地になったのはどうしてなんでしょうか。 境地、うん、そうだね、境地と言ってほしいね(笑)。そもそもは、そのライブのために自分がいるんだという証みたいなものを残したい、それをみんなと共有したいということだね。「お前のところに来ているよ、いま」っていうのをね。 「サンキュー東京!」とか言うアーティストもいるけど、おれは言わないから。でも、もし外国のタレントが日本に来て、そのへんの街を歩いて、それをステージ上で映して、「今日、ここへ行ってきたぜ、ベイビー」とか言ったら、すごく嬉しいんじゃないかなと思ったの。「ああ、あそこに行ってくれたんだ」ってね。 そうしたら、僭越ながら、もし自分が本当にみんなが住んでいそうな街角や行きそうな喫茶店に行って、それを見てもらったら、「ああ、来てくれたんだな」って喜んでもらえるんじゃないかなと思ったんだ。スタッフも、「ああ、おれたち、いまここにいるんだな」って、見てわかってくれるしね。 でも、まあ、なんといっても、自分なんだろうな。なんだかんだ言ってるけど。自分が、この時期、この年齢であちこちに行ってきたというものを、その証を残したいというね。それから、このライブは、ここでしかやってないよ、この日しかやってないよというふうにしたいんだろうな。 ――「ご当地紀行」を見ていますと、ほぼ毎回、階段を上ってますね。なぜ、こんな負荷をかけるんですか。 「ご当地紀行」をやるってこと自体、負荷をかけているからね。いじめたり、無理したりすることによって、なんだかすごくエネルギーが出てくるんだね。「こんぴらさん」なんかも、つらいんだよ、階段上がるの。つらい思いをして、山を登るからね。どうして、コンサートに来て、こんな山奥にいるんだろうみたいなね。でも、それはそれで、またおかしくて。 それに、一生懸命やってるな感は自分にもあって、お客さんもそのバカバカしさを笑ってくれる。「こんぴらさん」を上っているの見て、見ているうちに、一緒にどこか疲れて笑ってね。うん、つらいけど、楽しいんだよ。 ――つらいけど、楽しい......そういうものですか。 楽したものは信用できないっていう、そういうところがあるんだね。逆に、つらい思いをして、通りすぎてきたものは信用できるっていう。優秀な人は、そんなつらい思いをしなくても、さっとやってできるわけだから、それでいいんだけど。おれは、そういう経験、あんまりないからさ。なんだかうまくいったなと思うことは、全部、つらい思いをしたあとだったから、つらいことは信用できるな、というところがあるんだよね。
小田和正(アーティスト)