植田総裁発言で早期利上げ観測が浮上か
YCC柔軟化の事前報道が国会で取り上げられた
金融市場で植田総裁の発言が注目された理由の一つは、その直前に、勝部議員から金融政策決定に関する情報管理についての質問がされていたためだろう。日本銀行が今年7月と10月にイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化措置を決めた際に、その直前に観測記事が報じられたことを受けた質問である。内田副総裁は観測記事については直接言及しなかったが、植田総裁が「情報管理もしっかりと行う」と述べたことから、その直前の「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況」という発言を、政策変更と結びつける見方が生じたものと考えられる。 ところで、事前報道の出所は、日本銀行ではなく政府側ではないかと、個人的には推察している。仮にそうであれば、決定会合の1日目、あるいはそれが終わった後に、翌日のYCC柔軟化決定を、日本銀行が政府側に伝えていたことになるのではないか。 90年代以降、日本銀行による引き締め方向の政策修正は、政府からの批判を浴びてきた。そうした歴史を踏まえ、日本銀行にとって、YCCの柔軟化は緩和強化の方向ではなく、長期金利の上昇余地を広げる引き締め方向の政策と位置づけており、それを政府側に直前に伝えることが良好な関係を維持するために必要、と考えていた可能性もあると推察される。仮にそうであれば、日本銀行は政府に対してかなり気を使っていることになる。もちろん実際のところはよく分からない。
金融市場は毎回の会合に臨戦態勢で臨む
植田総裁は、「年末から来年にかけて」と言ったのであって、「年末から来年初めにかけて」といった訳ではないが、金融市場は12月あるいは来年1月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策解除などの政策変更が行われる可能性を警戒し始めた。実際にはその可能性は高くないと思われるが、可能性がゼロでない以上、油断せずに注視しておくことは必要だ。金融市場は今後、毎回の会合に、臨戦態勢で臨むことになるだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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