孤独や不安の中にいる妊婦 支えて20年以上「こんなにも困っているんだ」 助産師が語る現実と支援
全国の児童相談所が昨年度、対応した児童虐待の件数は過去最多を更新し、同時に発表された2021年度の死亡事例では、心中以外の要因で死亡した50人のうち、ほぼ半数にあたる24人が0歳児だった。背景には望まない妊娠と、妊産婦の孤独・孤立があると指摘される中、20年以上こうした妊産婦に向き合ってきた東京都内の病院に、取り組みについて聞いた。 近年、総合病院などで児童虐待対応チームの立ち上げも増えてきたが、東京・江戸川区の「まつしま病院」では、2002年にDV・虐待・性暴力被害に関する委員会を立ち上げた。その当初から関わる幸崎若菜助産師は、DV・虐待・性暴力とも、関わり方の基本に大きな差はなく、とにかく被害者の「話を聞く」姿勢が必要だと語る。
■健診では見えない「生活」をみる
「妊婦さんは病気ではないので、どこの病院も正常な経過をたどっているかを健診でみていきます。しかし、こどもを育てていくというのは『生活』なので、その中に入り込まないと何が起きているか見えてきません。つまり、身体的な経過として問題ないからといって、育児が順調にできることとイコールではない。元々当院には、身体的なハイリスクの妊婦さんはあまり来院されません」 「しかし、生活のレベル、学歴、所得はまちまちで、家庭内の様子を聞かせてもらう中で、夫との関係性や金銭面の問題、育児への悩みなど、様々な生活の中で起きる課題や困りごとに向き合うことは多かったんです。でも、それを助産師が主となって行う助産師外来の30分で聞き取るのは難しかった」
■妊娠がわかってうれしい人ばかりではない
こうした経緯があり、まつしま病院に2015年8月に設置したのが“支援外来”である。 「支援外来は、社会的な課題を抱えた妊婦さんとお会いしてお話をする外来です。生活の中の困りごと、課題をゆっくり聞かせていただき、課題解決に向けてできることや、妊娠中にどんな準備をすべきかを伝えています。妊娠がわかってうれしい人ばかりではない。だから私たちは率直に妊娠についてどう思ってるかも聞いていきますし、困っているのだとしたら、どんな選択をするかも含めて伺います」 「当院は産婦人科の医療の中ではおろそかにされてきた、中絶のケアもしています。支援外来を立ち上げてみると、こんなにも妊婦さんが困っているんだという現実に直面しましたが、当院がずっと大事にしている暴力の問題や中絶のケアも含め、社会的な課題を抱えた妊婦さんに寄り添う医療機関はまだまだ足りていません。当院の支援外来は開始しておよそ8年ですが、放置すれば虐待につながるリスクの認識が院内で共有されるようになりましたし、携わってくれる助産師も増え、こうした取り組みが必要だという機運が高まっています」 「また、当院には小児科があるので、予防接種やかかりつけ医として長いスパンでお付き合いできる強みもあります。産科でお伺いした妊婦さんの情報が小児科にも引き継がれるので、個別の背景を理解した上での支援やアドバイスに取り組み、その人らしい育児につなげています」